災害現場では「一刻」が生死を分けます。情報が遅れることで、救助の優先順位を誤り、被害を拡大させるリスクが生じます。こうした状況において、一次情報の質と量が極めて重要です。
これまで多くの自治体や救助機関(消防・警察・自衛隊)は、ドローンを災害現場の空撮に活用してきました。しかし、既存のドローンが搭載するカメラは通常、単一方向の映像しか記録できません。つまり「見ていない方向」の情報は、まるごと抜け落ちてしまうのです。
そこで注目すべきが、360度カメラを搭載したドローン(ドローンVR機体)です。

目次
- 1 全周囲を一度で把握できる「一次情報の革新」
- 2 広がる応用可能性
- 3 現状の課題と今後の展望 ─ 制限を超えて、本当に必要な技術へ
- 4 【想定活用事例1】2011年 東日本大震災 ― 津波被害の全方位可視化
- 5 【想定活用事例2】2018年 西日本豪雨 ― 土砂災害現場の即時把握
- 6 【想定活用事例3】2021年 熱海土石流災害 ― 急峻地での安全な調査手段
- 7 【想定活用事例4】2016年 熊本地震 ― 倒壊家屋密集地での情報収集
- 8 【想定活用事例5】2019年 台風19号(東日本を中心とする広域豪雨・河川氾濫)
- 9 未来への提言
- 10 最後に:災害現場の「見える化」は、命を救う
- 11 災害時支援をご希望の自治体・関係機関の皆さまへ
全周囲を一度で把握できる「一次情報の革新」
360度カメラ搭載ドローン(ドローンVR機体)は、単なる空撮機材ではありません。これは、全周囲の一次情報を一度の飛行で取得できるプラットフォームです。
主な利点
1.迅速な状況把握
複数方向から撮影し直す必要がないため、限られた時間・バッテリーでの飛行にも最適。
2.視野の死角ゼロ
建物の裏や地形の窪地など、従来のカメラでは見落としやすいエリアも記録可能。
3.後からの視点変更
現場で見逃していた箇所も、後から映像を再解析することで確認が可能。これにより、二次活用(判断ミスの検証、教材化、VR訓練など)にも広がります。
4.通常のカメラの映像も残せる
産業用のドローンMatrice300RTKなど、どのようなドローンも純正のカメラは搭載したまま360度カメラを後付けするので、クローズアップしたい情報と周辺の情報を同一フライトで残すことが可能です。

広がる応用可能性
従来の「カメラ+ドローン=空撮」から一歩踏み出し、360度映像が持つ「空間記録」という特性を活かせば、以下のような活用も考えられます。
1. 被災地の全体把握 ─ 空から“全周”を一望する新たな視点
従来のドローンでは一定の方向しか撮影できず、現場全体の把握には複数回の飛行を行ってもつながりのない検証しずらいデータになってしまいがちです。360度カメラ搭載ドローンなら、一度の飛行で被災地全体をあらゆる角度から同時に可視化。氾濫範囲、道路の通行可否、孤立地域の確認など、初動の状況把握が飛躍的に効率化されます。
衛星・航空写真ではわからないミクロな情報をドローンで補完。
2. 現場指揮の判断迅速化 ─ 映像を“空間”で共有し、的確な指示へ
360度映像は、指揮所や本部でVRやモニターを通じてその場にいるかのような臨場感で情報共有が可能です。関係機関が同じ視界・同じ空間認識を共有することで、誤解のない指示と素早い連携が可能に。時間との勝負である災害現場で、判断の質とスピードを同時に高めます。
3. 復旧・検証・報告資料としての制度的活用 ─ 記録が地域を守る“証拠”に
災害時の映像記録は、単なる記録にとどまらず、復旧計画の根拠資料・国や関係機関への報告書類・保険請求の証拠など、制度的・法的活用にも耐える価値を持ちます。現場を360度で「記録しておく」ことが、のちの災害対応や支援獲得を確実なものにする重要な施策となります。
4. 地域防災・教育への展開 ─ 災害を“次の備え”に変える力
災害現場の360度映像は、学校教育・避難訓練・地域防災ワークショップなど、平時の啓発や教育に活用できます。VR体験や再生教材として活用することで、防災の現実味を住民が体感でき、地域の防災意識向上や避難行動の定着にもつながる資産となります。
360度映像の最大の価値は「見逃さないこと」「後からでも見直せること」「現場に行かなくても空間を理解できること」
現状の課題と今後の展望 ─ 制限を超えて、本当に必要な技術へ
360度カメラ搭載ドローンの有用性は高まる一方で、現場導入のハードルは依然として残っています。技術だけではなく、法制度・運用体制の整備が今後のカギとなるでしょう。
技術的な課題
1.データ容量の問題
360度映像は非常に高解像度かつ広範囲であるため、通信インフラが不安定な被災地ではリアルタイム伝送が困難です。5Gやローカルネットワーク、スタンドアロン録画といった柔軟なシステム構成が必要です。
2.重量と飛行時間のトレードオフ
360度カメラは高性能化とともに小型化が進んでいますが、それでも通常のドローンより重量が増すため、飛行可能時間が短くなる問題があります。今後は超軽量360度カメラやバッテリーの高性能化が課題です。
法制度・運用面での課題:航空法と緊急空域の制限
最も現実的な障壁として挙げられるのが、航空法に基づく飛行制限です。
災害時には、特に被害が甚大な地域が「緊急要務空域(災害時等の一時的な飛行禁止・制限区域)」に指定されることがあります。
これにより、ドローン業者が情報収集を目的としてドローンを飛ばそうとしても、国や地方自治体との調整がなければ即時飛行できない場合があるのです。
展望:制度と技術を“災害対応モード”へ
この課題に対し、今後は以下のような対策・制度整備が期待されます。
1“共通空域マネジメント”の導入
災害現場での空域を自衛隊・消防・民間・報道などで共有管理するUTM(無人航空機交通管理)システムの本格導入により、安全かつ効率的に複数機が協働できる環境を構築すべきです。
2.自治体が所有する“公的ドローンチーム”の設置と訓練
地域主導の災害対応力を高めるために、ドローンと360度映像を扱える専門チームを自治体内に常設する仕組みも今後の重要課題となります。外部チームの育成でもよいでしょう。
【想定活用事例1】2011年 東日本大震災 ― 津波被害の全方位可視化
背景
東日本大震災では、津波による被害が広範囲に及び、現場の映像把握が困難でした。特に港湾部や市街地の被害は「どこが浸水しているか」「どこに人が取り残されているか」の把握に時間がかかりました。
もし360度カメラ搭載ドローンがあったら
1.沿岸部を一度の飛行で広角に把握
複数方向からの被害状況(津波の到達状況・浸水エリア・避難している人々の位置など)を同時記録。
2.ヘリが進入できない狭いエリアの状況も記録
瓦礫や倒壊建物の間などに潜む被災者の発見にも貢献。
3.被害後の空間記録として自治体が復興計画に活用
災害の「空間記憶」を残す一次資料として、後年の検証や教育にも。
【想定活用事例2】2018年 西日本豪雨 ― 土砂災害現場の即時把握
背景
西日本を中心とした大雨により広島・岡山・愛媛などで大規模な土砂災害が発生。道路や鉄道が寸断され、孤立集落も多数発生。初動の情報収集に時間がかかりました。
もし360度カメラ搭載ドローンがあったら
1.山間部・斜面の崩落状況を全周囲から把握
どこまで道路が寸断されているかを上空から360度で撮影し、通行可能ルートを迅速に特定。
2.孤立した住民の避難状況を後から映像で精査
一度の飛行で見逃していたエリアも後日再確認可能。
3.空間把握をVRで現地に行かずに共有
自衛隊・消防本部などが遠隔地でも同じ映像を共有し、作戦会議の精度を向上。
【想定活用事例3】2021年 熱海土石流災害 ― 急峻地での安全な調査手段
背景
静岡県熱海市で大規模な土石流が発生。人が入れないような危険区域の把握が困難で、救助活動の安全確保が課題となりました。
もし360度カメラ搭載ドローンがあったら
1.倒壊建物の裏側・斜面の上部の状況も確認可能
救助隊の接近前に映像で現場の全体を把握し、作戦に反映。
2.危険区域を非接触で確認・記録
再崩壊の恐れがある箇所を詳細に可視化し、現場に入る必要のない判断材料を提供。
【想定活用事例4】2016年 熊本地震 ― 倒壊家屋密集地での情報収集
背景
熊本地震では市街地での家屋倒壊が多数発生し、住宅密集地において人の立ち入りが危険な状況が続きました。
もし360度カメラ搭載ドローンがあったら
1.市街地の密集区域を全周囲撮影し、倒壊状況をマッピング(通常ドローンでも可)
2.複数部署(市役所・自衛隊・消防)で映像を同時解析
360度映像なら、各部署がそれぞれの関心視点で情報を引き出せます。
【想定活用事例5】2019年 台風19号(東日本を中心とする広域豪雨・河川氾濫)
背景
2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)は、関東・東北を中心に記録的な大雨をもたらし、全国の71河川で堤防が決壊、浸水被害は7万棟を超えました。特に長野県千曲川や福島県阿武隈川では、市街地への大量の浸水が発生し、初動の状況把握に時間がかかりました。
もし360度カメラ搭載ドローンがあったら
1. 広域の浸水範囲を即時に全周可視化
360度カメラで撮影すれば、一度の飛行で氾濫箇所と周囲の住宅地・道路・避難経路の全体像を記録可能。一方向の映像しかない従来のドローンでは、何度も飛ばして方角を変えて撮影する必要がありましたが、360度であれば1フライトで全方向の判断材料が揃います。
2. 現場指揮所でのVR再生による被害把握と作戦立案
浸水区域では地上の視認が難しく、どこに人が取り残されているか、ボートがどこまで入れるかなどの判断が困難。360度映像をVRゴーグルやPCで解析すれば、隊員を危険な区域に入れる前に、空間的な安全度を確認可能です。
3. 避難所や孤立地域の外周状況の把握
避難所が浸水で孤立しているケースでは、360度映像を使って避難者が外に出られるか、上階への避難が必要かなどの判断を早期に実施可能。地上のアプローチが困難でも、ドローンで全方向から確認できます。
4. 後日の検証資料・浸水マッピングへの応用
浸水の広がりや流れの方向などを空間的な記録として残すことで、将来的な防災対策・都市計画にも活かせます。360度データであれば、特定の地点だけでなく「全域のリアルな記憶」として保存できるため、従来の静止写真や2D地図とは比べ物にならない再現性があります。
未来への提言
災害対策は「起きてから考える」のではなく、「起きる前から仕組みを作る」ことが求められます。360度カメラ搭載ドローンの導入は、まだ自治体には一般化していませんが、自治体や防災機関が先行して制度化・実証を進める価値のある分野です。
まずは小規模な導入からでも構いません。地元の訓練やハザードマップ作成と連動する形で、360度映像データを使った災害対応フレームを構築していくことが、次の災害に備えるうえで不可欠です。
最後に:災害現場の「見える化」は、命を救う
360度カメラとドローンという既存技術を組み合わせることで、私たちは「現場を記録する」から「現場を理解する」ステージへと進化させます。それはつまり、正確な判断で命を救うという責任ある情報提供につながります。
これからの災害対応は、空間的に、時間的に、全方位からの可視化をベースに再構築すべきです。その中心に、360度カメラ搭載ドローンが役に立つ未来があると感じます。
災害時支援をご希望の自治体・関係機関の皆さまへ
当社では、360度カメラ搭載ドローンを活用した災害時の情報収集支援をはじめ、現場で即時に役立つ空撮映像の取得・提供体制を整えております。技術力と運用実績を活かし、被災地の状況把握、孤立地域の確認、復旧活動の初動支援などに貢献できる体制を全国規模で展開可能です。
現在、全国の自治体・消防・警察・関係機関との間での「災害協定」締結も順次進めており、ご要望に応じた柔軟な対応が可能です。災害発生時の迅速な支援はもちろん、平時からの訓練・体制構築にもご協力いたします。
ご興味のある自治体・団体様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。