ドローンを活用した点検は、高所や危険な場所の点検を安全かつ効率的に行えるため、近年注目されています。外壁や屋根、太陽光発電所、風力発電所、橋梁など、幅広い分野で活用が進んでおり、点検の新しい手法として定着しつつあります。
ドローン点検の導入を検討する際、気になるのが費用ではないでしょうか。
ドローン点検には、外部の専門業者に委託する方法と、自社でドローンと人材を準備して行う方法があります。どちらの方法を選ぶかによって、かかる費用やメリット・デメリットが大きく異なります。
こちらでは、ドローン点検の費用・維持コストについて解説いたしますので、ぜひともご覧ください。
ドローンで点検できる対象とは?幅広い活用シーン~国のマニュアルに基づく活用事例を紹介~

近年、ドローンを用いたインフラ点検は「高所」「狭所」「危険箇所」といった、人による直接点検が難しい現場で不可欠な手法となりつつあります。その有効性は、国土交通省や各インフラ管理機関が発行する点検マニュアルや技術資料にも明記されており、もはや「実証段階」ではなく、実務に組み込まれた点検手法の一つとして確立されつつあります。
本章では、国が示す指針や各種点検要領に基づき、ドローンが実際に活用されている代表的な施設や構造物の事例を紹介します。安全性・効率性・記録性の観点からも、現場にどのようなメリットがあるのかを具体的に見ていきましょう。
橋梁の定期点検
国土交通省の「橋梁定期点検要領(2019年改定)」において、ドローンなどの支援技術を用いた点検が明確に容認されています。要領では、「近接目視と同等の判定が可能な手段」として、撮影・記録・異常検出機能を持つドローンによる点検が対象に含まれています。
具体的には、橋梁の橋脚面や桁端部といったアクセス困難な部位での活用が標準化されつつあり、自治体や建設コンサルタント各社も実運用を行っています。
トンネル内部の確認
「道路トンネル定期点検要領」においても、非GPS環境下での点検が必要な状況において、ドローンの使用が実績とともに広がっています。国総研の技術検証では、ドローンによりトンネル天井部や側壁のクラック、漏水箇所の検出が行われ、照度不足環境下でも赤外線・高感度カメラを用いて成果を挙げています。
鉄道各社でも、閉所飛行に適したドローンによる夜間巡視や点検の省人化が進行中です(例:東京メトロ、JR東日本)。
工場・倉庫の内外部点検
国土技術政策総合研究所や地方自治体による先行実証に基づき、天井、梁、屋根裏、配管などの高所設備点検にドローンが本格導入されています。足場不要・短時間での広範囲点検が評価され、特に物流倉庫や食品工場では、稼働停止を避けつつ保全業務が可能となっています。
ダム・河川・砂防施設
国土交通省「i-Construction」や「新技術活用システム(NETIS)」において、ドローンを用いた3D点群データによる堤体の変位計測、護岸・法面の浸食調査が標準的に採用されています。
たとえば、ダム上流の堆砂状況や導流壁の破損確認にも、UAVによる定期モニタリングが導入済みです。
住宅屋根・ソーラーパネルの点検
住宅分野では、太陽光発電協会(JPEA)や住宅保証機構が赤外線ドローンによるパネル点検を推奨しており、出力低下の原因特定やホットスポットの検出に活用されています。
また、火災・地震・台風後の保険調査としても屋根点検にドローンを使う事例が全国で定着しており、各地の損害保険会社がパートナー企業と連携した運用体制を整えています。
下水道管内の調査・点検
老朽化が進む管路施設に対して、効率的かつ安全な点検手法の導入が推奨されています。特に直径の大きな幹線管渠や立坑などでは、作業員の立ち入りが危険または困難なケースも多く、ドローンを用いた点検が有効な手段として導入されています。
ドローン点検の外部委託と費用の考え方

ドローン点検を外部業者に依頼する際は、飛行だけにとどまらず、運航計画の立案、安全対策、現場環境に応じた運用判断などを一貫して担える高度な専門性をもったドローンオペレーターが対応します。飛行そのものが容易に見える反面、実際の現場では多くの法的・技術的判断が求められるため、経験と実績に裏付けられたドローン事業者に依頼することは、安全性確保に直結します。
業務形態の違いと分業の進展
現在、ドローン点検を行う事業者の業務形態は主に2つに分かれます。
【①運用から報告まで一括対応する事業者】
これらの事業者は、点検対象や目的に応じて飛行・撮影を行い、画像解析や異常検出、さらに成果報告書の作成までを一貫して提供します。国交省の定める各種点検要領(橋梁定期点検要領、ダム点検要領、建築物定期調査要領など)に基づき、成果品も公共仕様や民間基準に準拠して納品されます。
【②ドローン運航・撮影に特化した事業者】
このタイプの事業者は、安全な飛行・撮影といった現地でのデータ取得に特化し、その後の解析・診断・報告書の作成は、建設コンサルタントや元請け企業が担う形で業務を分担しています。特に国が定める「公共測量作業規程」や「インフラ点検支援技術性能カタログ」などの技術基準を意識した連携が求められます。
いずれの形態においても、業務範囲は建設コンサルタントや発注者と協議のうえで明確に定められ、求められる成果に応じた最適な体制が組まれることが一般的です。
費用構成の考え方と相場感
ドローン点検の費用は、以下のような要素で構成され、内容に応じて大きく変動します。
主な費用構成要素
- 点検対象の種類と面積(橋梁、外壁、屋根、設備など)
- 使用する機材(ドローンの種類、カメラ、センサー等)
- 飛行・撮影に関わる要員数と稼働日数
- 取得データの解析方法(AI解析、自動・手動検出など)
- 報告書の形式・精度(写真報告、図面付き、診断付きなど)
- 法的手続きや飛行申請の有無(DID地区、夜間飛行など)
費用の一例(実運用ベースでの参考価格)
| 点検対象 | 費用目安 | 背景・補足 | 
|---|---|---|
| 中小規模の橋梁点検(定期点検相当) | 20~50万円/件 | 国交省の橋梁点検要領に準拠した近接撮影・解析含む | 
| 道路トンネルの内部調査 | 30~60万円/件 | 非GPS環境用機体・照明・安全要員込みの構成が一般的 | 
| 倉庫・工場屋根設備点検 | 10~30万円/日 | 広範囲の高所点検を1日で完結できる | 
| 砂防堰堤やダム法面の3Dモデリング | 25~80万円/件 | 写真測量・変位測定により維持管理台帳と連携可能 | 
| 屋根・ソーラーパネル点検 | 5~15万円/件 | 赤外線によるホットスポット検知や破損箇所可視化含む | 
委託と内製の使い分け
近年では、建設会社やコンサルタントがドローン運用を内製化する事例も増加しています。しかし、以下のような課題も指摘されています。
- 機体・解析ソフトの選定と導入費用
- 飛行安全や法規制への対応能力の蓄積
- 操縦者や解析人材の育成コスト
- 標準化が進まない点検手法への対応力
ドローン事業者への委託は、これらの課題を軽減し、安全性と成果品質を確保する有効な手段です。点検頻度が少ない民間企業では、初期投資の負担を回避しつつ、確実な点検を実現できるメリットがあります。
外注と内製の判断ポイント~目的と体制に応じた最適な選択を~
ドローンを用いた点検は、高度な操縦技術だけでなく、法令対応、現地調整、データの信頼性確保、報告書作成に至るまで多くの専門性が求められます。こうした背景から、多くの民間企業では経験豊富なドローン事業者や建設コンサルタントと連携しながら業務を外部委託する形が一般化しています。
一方、ドローン活用の内製化を検討する動きも進んでおり、企業の業種・業態・点検頻度によってその判断は分かれます。
外注の主なメリット
外部の専門事業者に委託することで、以下のような利点があります。
- 最新機材と解析手法に対応可能:ドローン業者が保有する高性能な機体やAI解析環境を活用できる
- 飛行計画の策定から現場対応までを一貫支援:法令・飛行ルールへの対応も含め、安全性を確保
- 業務責任の明確化とリスク分散:損害保険や飛行許可の取得など、運用上の負担を軽減
- 人的リソースの確保が不要:繁忙期や広域点検にも柔軟に対応可能
- 点検頻度が低い場合のコストメリット:初期投資を抑え、必要なときにプロを活用
特に、ドローンの運用経験が社内に乏しい場合や、年に数回しか点検を行わない場合には、外部委託の方が合理的です。
自社運用(内製化)の特徴と課題
一方、自社内にドローン体制を構築することで、以下のような利点も得られます。
- 点検スケジュールの柔軟性:自社の判断で日程を調整でき、天候や現場状況に即応可能
- 長期的な費用削減:高頻度で点検を行う場合には、運用コストを下げられる可能性あり
- 知見の蓄積:社内に飛行技術や点検ノウハウが蓄積され、他業務への展開も可能
ただし、次のような課題も存在します。
- 機体・ソフト・解析環境の導入費:初期コストが高額になりやすく、更新も必要
- 法規制対応と運航管理の煩雑さ:飛行許可、飛行記録、安全マニュアル整備などが必要
- 専門人材の育成が必要:飛行技術だけでなく、点検基準や報告スキルも求められる
- 災害や事故時のリスク責任:第三者損害への対応など、保険の備えも重要
外注と内製の比較表
| 比較項目 | 外部委託 | 自社運用(内製化) | 
|---|---|---|
| 初期費用 | 不要~低額 | 高額(機材・教育・ソフト) | 
| 運用の柔軟性 | 限定的(予約制) | 高い(現場に応じて対応可) | 
| 専門性 | 業者に依存 | 社内スキル次第 | 
| リスク対応 | 分担・明確化 | 自社負担が大きい | 
| スキル蓄積 | 難しい | 社内ノウハウとして蓄積可能 | 
| コスト効率 | 点検頻度が低いと有利 | 頻度が高いと有利 | 
目的に応じた体制選びを
最終的には、「何を」「どこまで」「どの精度で」点検するのか、そしてその頻度や対応スピードのニーズを踏まえて判断することが重要です。
点検業務は、飛行・撮影の工程だけでなく、法的知識、安全配慮、解析力、報告書作成まで一体となったプロセスです。業務のどこを外部に任せ、どこを社内で担うのかを明確にし、自社の体制・目的に合った最適な運用モデルを選ぶことが、インフラ維持管理におけるリスク軽減と効率化につながります。
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