CM ロケで必要なドローン機材と備品|Inspire 3 撮影準備ガイド

投稿:2025年5月6日|更新:2025年10月28日著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

撮影機材 撮影技術

ドローンでCM撮影するってどんな感じ?プロの現場から学ぶ空撮の流れと使われている機材

最近のテレビCMやWeb広告を見て、「あの壮大な空撮、どうやって撮ってるんだろう?」と思ったことはありませんか?
いまや、ドローンによるCM撮影(空撮)は、映像制作に欠かせない手法のひとつです。

この記事では、実際にプロが行っているCM撮影の流れや、使われている代表的な機材「DJI Inspire 3」の魅力を、初心者にもわかりやすく紹介します。
「ドローンでCMのような映像を撮ってみたい!」という方にも参考になる内容です。

なぜCM撮影でドローンが使われるのか?

ドローンは、これまでヘリコプターや大型クレーンでしか撮れなかった“空からのダイナミックな映像”を、手軽に・安全に撮影できるのが魅力です。
たとえば企業CMのオープニングで街を俯瞰したり、車を滑らかに追いかけたりといった“映画のようなワンカット”を実現できます。

特にCM制作では、「ブランドの世界観を伝える」「視聴者の印象に残る映像にする」ことが重要。
そのため、空撮によるスケール感・光の演出・滑らかな動きは、映像全体のクオリティを大きく左右する要素になります。

CM撮影の現場で使われる代表的なドローン「DJI Inspire 3」

プロの現場で多く使われているのが、DJI Inspire 3(インスパイア3)という機体です。
このドローンは、広告撮影や映画撮影にも対応できる性能を持っており、次のような特徴があります。

Inspire 3 の主な特徴

8Kフルフレーム映像対応:細部まで美しく、編集でもトリミングやズームが自在

Zenmuse X9-8K Airカメラ搭載:豊かなダイナミックレンジで、映画のような質感を再現

交換レンズが豊富:撮りたい構図に合わせて最適な画角を選択可能。レンズラインナップは11mm~90mmまで!

2オペレーション対応:操縦とカメラ操作を分けて行えるため、複雑なカットに強い

強力な映像伝送システム:監督やクライアントもリアルタイムで映像を確認可能

CMの現場で求められる「正確さ・美しさ・再現性」をすべて満たせるのが、このInspire 3なのです。

CM撮影でドローンチームがやっていること(撮影の流れ)

ドローンを使ったCM撮影は、単に「空を飛ばして撮る」だけではありません。
映像の完成度を高めるために、撮影部との綿密な準備とチームワークが求められます。
ここでは、実際のCM撮影の一般的な流れを紹介します。

① 事前準備(ロケハン・安全確認・許可申請)

撮影前にはロケハンを行います。
太陽の向きや、周囲の障害物、飛行制限エリアなどを確認し、最適な飛行ルートを設計します。
ロケ場所の撮影許可関連(ドローンを飛ばすための処置等も)は映像制作会社の制作部やロケーションコーディネーター(ロケコー)が担ってくれることが多いです。高高度撮影が必要な際などはドローン業者側が航空法に基づいて申請を実施することもあります。


② リハーサル撮影(構図・動き・光の確認)

本番前にアングルチェックを行い、構図と動きの確認をします。
CM撮影では、ドローンの操縦者とカメラオペレーターの2人がチームを組むことが多く、
「どのタイミングでどこを追うか」「どんなカメラワークで見せるか」を監督・カメラマンと綿密に合わせます。

また、照明・演者との動きのタイミングもここで調整。
CMでは“秒単位の美しさ”が求められるため、このリハーサルが仕上がりを大きく左右します。

③ 本番撮影

CM撮影の本番は、まさに現場の総力戦です。
太陽の角度、雲の表情、被写体のタイミング。どれも一瞬として同じ状況はありません。
その中でドローンオペレーターは、光・構図・動きを瞬時に判断し、最適なフライトを選びます。

そこに必要なのは、現場の意図を読み取る経験と現場力です。

監督やカメラマンが描いた絵コンテには、物語の“設計図”が詰まっています。
しかし現場では、光の入り方や被写体の動きや表情によって、
その「設計図」を超える瞬間が訪れることがあります。

その一瞬を見逃さず、監督の要求を上回る映像をイメージして本番に臨みます。

ただ指示通りに飛ばすのではなく、監督の意図を汲み取り、
「このカットなら作品全体がもっと生きる」という判断をその場で提案することもあります。

CM撮影ならではの演出の工夫

CMの空撮では、単に“高い場所から撮る”だけではなく、ストーリーをどう表現するかが重要です。
たとえば以下のような演出がよく行われます。

オープニングショット:街や自然を上空から映し、作品の世界観を印象づける

被写体追尾ショット:走る車・人物を滑らかに追いかける

終盤の引きカット:製品やロゴが映り、ブランドの余韻を残す

Inspire 3の2オペレーション機能と高画質カメラは、これらの構成をスムーズに実現します。

プロのCM撮影で使われる主なドローン・撮影機材

CM撮影では、機材の信頼性がすべて。
当社では、以下のようなラインナップを標準装備として現場に持ち込みます。

ドローン機材

Inspire3

空撮の主役となるInspire 3は常に2機体制で現場に入ります。万が一の機体トラブルや予期せぬエラーが発生した場合でも、予備機があれば撮影を中断させることなく、スムーズ撮影が進みます。

TB51インテリジェントバッテリー

長時間の撮影を支える大容量バッテリーを13セット携行。充電環境がない現場でも、1セットあたり約20分の飛行ができ、合計260分の飛行時間を確保できます。これだけあれば長時間の空撮にも柔軟に対応可能です。充電環境さえあれば、2機体制で一日中飛ばし続けることも可能となり、どんな過酷なロケにも対応できる準備を整えています。

サブオペレーション/カメラオペレーション用プロポ (DJI RC Plus)

メインの操縦を担当するマスタープロポに加え、サブオペレーターやカメラオペレーターがそれぞれ独立して操作できるDJI RC Plusも常備。2オペ体制で複雑なカメラワークやジンバル操作を、熟練のカメラオペレーターが連携して行うことができ、よりクリエイティブでダイナミックな映像表現を追求します。

WB37バッテリー

プロポや高輝度モニターといった周辺機器の駆動に不可欠な交換式バッテリーを8本用意。予備バッテリーを十分に確保することで、電源切れの心配なく、長時間の撮影をサポートします。

撮影機材

ZenmuseX9-8K Air

Inspire 3専用に設計された高性能フルフレームジンバルカメラを2機分完備。8Kの高解像度と卓越したダイナミックレンジにより、息をのむほど美しい映像を実現します。機体トラブルだけでなく、ジンバルの予期せぬ不具合にも迅速に対応できる体制を整えています。

レンズ

多様なカットと表現に対応するため、DJI純正の単焦点レンズを全てと社外品のLAOWAとVILTROXの対応品を完備しています。
・DJI DL18mm F2.8
・DJI DL24mm F2.8
・DJI DL35mm F2.8
・DJI DL50mm F2.8
・DJI DL75mm F1.8

・LAOWA 11mm F4.5
・LAOWA 14mm F4.0
・VILTROX90mmF3.5

NDフィルター

DLレンズに対応したNDフィルターを各種用意。

DJI PROSSD 1TB

Inspire3専用の大容量SSDを5本完備。高画質な8K映像を長時間記録することが可能です。

・CinemaDNG/8K 23.976fps:約20分
・ProRes RAW/8K 29.97fps:約20分

大概の撮影は5本もあれば対応可能ですが、長時間の収録が必要な場合でも安心して対応できます。

DJI 3ch Follow Focus

繊細なピント合わせが求められるカットには、DJI 3ch Follow Focusが不可欠です。熟練のフォーカスプラーとの連携により、被写体の動きに合わせた正確なピント送りを実現し、映像に深みと奥行きを与えます。フォーカスを駆使したシビアなカットは、私たちドローンカメラマンにとって、技術と経験が試されるやりがいのある瞬間です。

DJI高輝度モニター

フォローフォーカス用の7インチモニターです。
拡張プレートによってSDI/HDMI出力端子を追加し、外部モニターへの映像出力も可能にしています。これにより、現場の複数のスタッフがリアルタイムで映像を確認でき、より効率的な連携作業をサポートします。さらに、Vマウントバッテリーアダプターを装着することで、長時間のモニタリングも安定して行えます。

DJI Transmissionコンボ(レシーバー&高輝度モニター)

ドローン本体からの高画質映像をワイヤレスで受信し、高輝度モニターでリアルタイムに確認できるシステムです。これにより、離れた場所にいる監督やクライアントも、飛行中の映像を鮮明に確認でき、的確な指示出しや判断が可能になります。

DJI SDR Transmission

小規模な現場や移動の多い現場では、コンパクトなSDR Transmissionを使用します。ブロードキャストモードではiPadなどのデバイスで映像を確認できるため、柔軟な現場運用を実現し、限られたスペースでも効率的なモニタリングが可能です。

安全かつスムーズなオペレーションを支えるアクセサリー

ローラースタンド(AVENGER 170cm)

平坦で移動の少ない現場では、安定性に優れたローラースタンドを使用します。特にAVENGERの170cmスタンドは、その堅牢性と使いやすさから、お気に入りです。

三脚

足場の悪い場所や頻繁な移動が伴う現場では、通常の三脚を使用します。軽量で安定性の高い三脚を状況に応じて使い分けます。

ワイヤレスインカム(Hollyland SolidcomC1 Pro)

スムーズなドローンオペレーションは、効率的な撮影に不可欠です。Hollyland Solidcom C1 Proは、クリアな音質と安定した接続で、もはや撮影現場の定番ですね。

プロペラガード

近接撮影や屋内の撮影時など安全性が特に求められる状況下で使用します。周囲の構造物や人との接触を防ぎ、安心してフライトできます。ただし風の強い日はNG。

ヘリパッド(HOODMAN 150&90)

砂利や草地など、不安定な場所での離着陸をサポートするヘリパッド。HOODMAN 150は視認性が高く、安全な離着陸を確保します。

D-RTK

高精度な位置情報が求められるシビアな撮影で使用します。屋外での位置精度が向上し、3Dドリーなどの高度な撮影テクニックの再現性を高めます。ただし、受信感度が低い都心部などでは、屋外でも使用できない場合があります。

予備プロペラ&ジンバルダンパー

万が一の破損に備え、予備のプロペラとジンバルダンパーを常に用意しています。これにより、不測の事態にも迅速に対応し、撮影の中断を防ぎます。

現場を支えるその他の備品

PERICANケース

主にバッテリーの収納に使用。堅牢性と防水性に優れており、飛行機移動の際には機内持ち込み用ケースとしても重宝します。大切な機材を安全に運搬するための必須アイテムです。

SSD空冷ファン

SSDのデータ転送を行う際に、高温によるデータ破損を防ぐために使用します。特に夏場のロケでは欠かせないアイテムです。

アーム各種(NOGA,Manflott)

モニタースタンドなどに取り付け、様々な周辺機器を最適な位置に固定するために使用します。多様な形状とサイズのものを揃え、現場のニーズに柔軟に対応します。

ポータブル電源(Ecoflow DELTA2 MAX)

撮影現場での電源供給をバックアップするために、Ecoflow DELTA2 MAXを車に常備しています。バッテリー充電や周辺機器への給電など、様々な用途で活躍します。

マグライナー

必要に応じて持ち込みます。

PC

撮影したデータの確認や、その他事務作業などに使用します。

各種バッテリー

VマウントバッテリーやNPFバッテリーなど、様々な種類のバッテリーを、撮影機材の必要量に合わせて常備しています。

ブロワー

機材メンテナンスなどに。

その他の必要備品類

・ケーブル類(HDMI,TypeCtoC,TypeAtoC,他)
・テープ類(ガッファー、パーマセル他)
・工具類一式
・延長コード
・ゴミ袋
・ウエス
・メジャー
・結束バンド
・養生ふとん

まとめ:CM撮影を支えるのは「技術」と「経験」、そして「機材」

CM撮影におけるドローン空撮は、ただ高性能な機材を持っているだけでは成り立ちません。
どのように飛ばすか(技術)どんな構図で見せるか(経験)
そしてその映像を確実に形にするための信頼性ある機材と準備——この三つのバランスが、作品のクオリティを決めます。

Inspire 3をはじめとするプロ用ドローンは、その技術と経験を最大限に発揮できる環境を与えてくれる存在です。
空撮の現場では、風や光、被写体の動きなど、常に変化する条件の中で最適な判断が求められます。
その瞬間の判断を支えるのが「経験」であり、その判断を正確に再現できるのが「機材」です。

私たちは、この三つを柱に、どんな現場でも安定した映像クオリティを提供できるよう取り組んでいます。
CM撮影の空撮をご検討の際は、ぜひTRICO.にご相談ください。
「技術 × 経験 × 機材」で、作品にふさわしい映像表現を精一杯実現いたします。



著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

ドローンカメラマンとして業界歴10年以上。CM、VR、イベント、産業系とオールジャンルの撮影に携わる。 マイクロドローンから超大型機まで、繊細な飛行技術を有する案件が得意。ドローンVR作品は日本各地で上映中。

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