近年、ドローンの活用が急速に進んでいます。特にレベル3.5が解禁され無人地帯での目視外飛行が認められるようになり測量の分野でも、その可能性はさらに広がりました。
都市部での物流や警備、インフラ整備に加え、災害対応など、様々な分野での活躍が期待されています。
こうした技術革新と法整備が進む中で、ドローンの利活用が特に顕著なのが、土木・建設現場です。
人手不足が課題となる現場において、危険な場所での作業を減らし、効率的なデータ収集を可能にするドローンは、DX化に不可欠な存在となっています。
こちらでは、ドローン測量の導入を検討されている皆様に向けて、ドローン測量の基礎知識をご紹介しますのでぜひともご覧ください。
ドローン測量とは?従来測量との違いや仕組みを理解する

ドローン測量とは、無人航空機(UAV)にカメラやセンサを搭載し、上空から地表を計測することで、三次元地形情報やオルソ画像、点群データなどを取得する測量手法です。
現在、ドローン測量には主に以下の2つの手法があります。
写真測量
ドローンを用いた写真測量は、上空から複数の静止画像を撮影し、それらの画像を処理することでオルソ画像や三次元点群(3Dモデル)を生成する手法です。
この画像処理には、SfM技術が用いられます。
SfM(Structure from Motion)
複数の視点から撮影された写真の間で特徴点(同一点)をマッチングし、カメラの位置と対象物の三次元構造を同時に推定する画像解析技術です。
主要なSfMソフト
- Metashape
- Pix4Dmapper
特徴と注意点
- GSD(地上解像度:cm/px)は撮影高度・焦点距離・ラップ率・カメラの画素数に依存
- 高精度を求める場合、RTK・PPKや標定点(GCP)による補正が必須
- 植生や構造物の裏側など、カメラから見えない範囲は取得不可
- 日照条件の影響を受けやすく、暗いと適正な露出が得られにくい(夕方・曇天時は注意)
事例
DJI Zenmuse P1(有効4,500万画素、35mmレンズ)の場合、GSD=1cm/pxを確保するには約61mの高度で撮影を行う必要があります(参照:DJI公式仕様書)。このスペックを下回る機材では、同じGSDを得るために飛行高度を下げ、飛行ライン数や撮影枚数が増加するため、作業時間が延びる傾向にあります。
ドローンLiDAR測量
LiDAR(Light Detection and Ranging)は、UAVに搭載されたレーザーセンサーが地表にパルス(光)を照射し、その反射時間をもとに対象物との距離を計測して三次元点群を取得する方式です。
特徴と注意点
- 写真と異なり地表面が露出していなくてもデータ取得可能(例:樹木の下の地形)
- 点密度(点群の濃さ)はセンサー性能・飛行速度・高度・ラップ率に依存
- 高密度を要求される案件(森林計測等)では、高性能センサーと低速飛行が必要
- 日照条件に左右されにくく曇天時や夜間でも計測可能
従来の地上測量(トータルステーション、GNSS測量)
測量士がトータルステーション(光波測距儀)やGNSS測量機器を用いて、基準点から距離・角度を計測しながら、対象地の点群や等高線を構築する方式。
効率性と制約
- 精度は高く、国の公共測量仕様に完全準拠(数mm~cm精度)
- 作業者が1点ずつ現地を計測するため、広域・危険地では非効率
- 山林や植生地域では機材設置や測定に時間がかかり、1日あたりの作業進捗が極めて限定的
従来型(地上型)測量との違い
| 比較項目 | ドローン測量(写真/LiDAR) | 地上型測量(TS,GNSS等) | 
|---|---|---|
| 測量範囲 | 数ha~数十ha一括対応 | 一点ずつの観測 | 
| 精度 | 数cm~10cm(目的により選定) | mm~cmレベル(高精度) | 
| 所要時間 | 数時間で完了可能 | 数日かかることもある | 
| 必要人員 | 少人数で運用可能 | 現場に複数人配置 | 
写真測量vsLiDAR測量(ドローン搭載)
| 比較項目 | 写真測量 | UAV-LiDAR測量 | 
|---|---|---|
| 精度 | 高い 数cm | 高い 数cm〜 | 
| 植生下の計測 | 不可(視認できる範囲のみ) | 可(レーザーが葉間を通過) | 
| 光・影の影響 | あり(撮影時間帯や天候に左右) | 少ない(レーザーは自発光) | 
| 機材コスト | 比較的安価(高性能カメラでも100万~) | 高額(300万~6000万) | 
| データ処理時間 | 大量画像処理に時間を要する | 生成は早く現場でも可視化可能 | 
現場条件・精度要件に応じた方式選定がカギ
- 広範囲(裸地):ドローン写真測量(高画素カメラ+RT/PPK)
- 広範囲の植生地・高精度な地表モデルが必要:ドローンLiDAR
- 高精度・狭いエリア・公共測量仕様:地上測量(トータルステーション+GNSS)
ドローン測量を成功させるための3つの実務ポイント

①飛行ルートの設計で成果の8割が決まる
ドローン測量の成否は、飛行ルートの計画段階で8割が決まるといってもいいと思います。これは、撮影画像やLiDAR点群の品質が、機体の飛行ルート・高度・速度・撮影インターバルなど、ルート設計・パラメータに強く依存するためです。測量方式ごとに適切な設計手順を理解し、現場の条件に即した最適化を図る必要があります。
【1】写真測量における飛行ルート設計の実務要点
- 高度とGSD(地上解像度)の計算
ドローン写真測量において、仕様書を確認して要求される精度に応じて、GSD(Ground Sampling Distance)=地上画素寸法(cm/pix)を決定します。
例:DJI Zenmuse P1(有効4500万画素、センサーサイズ35.9mm×24mm)
焦点距離35mmレンズ使用時、GSD1.0cm/pixを確保するには以下の高度設定が必要です。
- GSD計算式
GSD=(飛行高度×センサーサイズ)÷(画像サイズ×焦点距離)
具体例(水平方向):
GSD=(H×35.9mm)÷(8192px×35mm)
約61.6m(地表解像度1cm/pixを確保する飛行高度)
※【注意】高精度(GSD1cm未満)を求めると、飛行高度が低くなり、対象面積あたりの撮影回数が増加→作業効率は低下します
- オーバーラップ率の最適化
SfM解析では、前後方向(フロントオーバーラップ)および側方(サイドオーバーラップ)の画像重複率が重要です。
| 推奨値 | 用途 | 
|---|---|
| 80%/60% | 標準的な地形(公共測量対応) | 
| 85%/70% | 凹凸が多い地形、法面 | 
| 90%/80% | 高精度3Dモデル、植生の多い地形など | 
オーバー・サイドラップ率を高く設定しすぎると、撮影枚数が増加し、飛行時間・解析負荷が大幅に増大します。
- 撮影間隔と速度の設計
連続撮影は、GSDとオーバーラップ率から撮影間隔距離(m)を計算し、飛行速度(m/s)とシャッター間隔(秒)を逆算します。
- 例:GSD=1cm/pix、フロントオーバーラップ80%、画像幅60m→撮影間隔=12m
- シャッター間隔:1.5秒、飛行速度=8m/s程度が目安
【2】LiDAR測量における飛行ルート設計の実務要点
- 地形追従飛行の必要性
写真測量と異なり、LiDARはレーザーの照射角(FOV:Field of View)と地表面までの距離により点密度が大きく変化します。そのため、起伏地では地形に追従する飛行を行い、点密度の均質化を図る必要があります。
- 点密度と飛行速度・ライン間隔の設計
LiDAR計測における点密度(pts/m²)は、センサーのスペックと飛行パラメータに依存します。
点密度の基礎式(簡略):
点密度=(スキャンレート×ビーム数)÷(飛行速度×ライン間隔)
| 条件 | 設計基準例 | 
|---|---|
| 標準地形・実用密度 | 100~200pts/m²(公共測量:100以上) | 
| 精密モデルが必要な法面 | 300~500pts/m²(国交省指針ベース) | 
点密度を高く確保したい場合、飛行速度を下げるorライン間隔を狭くする必要があります(作業時間とのトレードオフ)
樹木下や草地の地表面データの取得
LiDARは可視光と異なり、複数のリターンを取得可能なため、樹冠を貫通して地表面の点を抽出可能です。
ただし、完全な透過性があるわけではなく、密な植生では計測方法の工夫が必要となります。
②事前踏査で安全性を確保
ドローン測量において飛行ルートを精緻に設計しても、机上データだけでは現地の実情を完全には把握できません。紙図面や国土地理院の基盤地図情報、Google Earth、飛行計画ソフトなどは便利なツールですが、それらに依存しすぎると地形の変化や障害物の見落としが精度低下や安全リスクに直結します。
特に以下のようなケースでは、事前踏査(現地確認)を必須とすべきです。
造成地や再開発地は地形データが古いケースが多い
Google Earthや国土地理院のDEM(5m/10m)では、造成中や開発中の地形は反映されていないことが一般的です。
現地では以下のような事象がよく見られます。
- 伐採や造成により、実際の斜面形状や土量が大きく変わっている
- 一見空き地に見えるエリアに仮設構造物や重機が配置されている
- 土砂崩れなどにより路面が不通、接近不可能になっている場合
- 送電線が計測範囲にあり計測を慎重に行う必要がある
- 植生が密。蔦がひしめきあっている
山間部測量では飛行障害物の把握が必須:送電線・無線鉄塔・樹木の伸長
山間地では、以下の要因がドローンの飛行や測量精度に影響を及ぼします。
| 障害物 | 問題点 | 
|---|---|
| 送電線 | 計測エリア内にある場合には綿密な飛行ルートを設計する必要が出てくる | 
| 無線・通信塔 | 電波干渉によるGNSS精度の低下やRTKエラーの原因となりうる | 
| 樹木の伸長 | 地図や衛星画像より数メートル高くなっているケースが頻発 | 
国土地理院の航空レーザー測量データ(ALSM)では高精度の樹高が得られる場合がありますが、5年以上前のデータであるケースが多く、現況とは不一致の可能性あり。
③現地でデータを即時確認し、不備を防ぐ
撮影や計測後、現場でその場でデータを確認することが極めて重要です。飛行後に不具合が見つかっても、再計測が困難なケースが多いためです。
写真測量の場合:
- ピントのズレやブレ、露出不足があるとSfM解析で再構成不可
- 現場でノートPC等を用いて画像を確認(サムネイルではなく等倍表示)
LiDAR測量の場合
- 現地で点群生成プレビューを行い、地表面の点密度・覆域を確認
- 取得範囲に地表点が十分存在しているのを目視で評価
多くのLiDARセンサーには専用の点群生成ソフトが付属しています。それらを活用して現地で簡易的に点群の確認を実施しましょう。
ドローン測量を外注する際に必ず確認すべき3つのポイント
ドローン測量を外注する際、見積金額や納期の早さだけで業者を選ぶのは非常に危険です。
使用するドローンの機体やセンサー、解析ソフトには性能差があり、それによって取得できるデータの精度や測量成果の信頼性が大きく変わります。
確実で高精度な測量結果を得るためには、技術力だけでなく、使用機材・運用体制・法令遵守の体制が整った業者を見極めることが欠かせません。以下では、外注時に確認すべき具体的なポイントを解説します。
①測量方式と使用機材の適合性を見極める
ドローン測量を外注する際、最も基本かつ重要なのが、目的に応じた測量方式(写真測量・LiDAR測量)に適した機材を業者が保有・運用できているかを確認することです。
国産・海外製ドローンの対応状況と実務上の留意点
現在、日本国内で測量業務に多く使用されているのは、DJI社(中国)の産業用ドローン(Matriceシリーズなど)ですが、近年ではセキュリティや調達要件を考慮し、国産機への移行やハイブリッド運用も進んでいます。
②法令遵守体制が整っているか(航空法)
ドローン測量は、法律上の制限や資格要件に強く規定されています。委託先がこれを理解・遵守していない場合、飛行そのものが違法となるリスクがあります。
航空法に基づく許可・承認
国土交通省の航空法(第132条・132条の2)により、以下の飛行条件では事前に許可・承認が必要です。
- 人口集中地区(DID)での飛行
- 夜間飛行、目視外飛行
- 人や構造物との距離30m未満での飛行
- 地表高度150m超の飛行
業者が包括許可を取得済みか/個別飛行計画を国交省DIPSで申請しているかを確認してください。
③データ形式・納品物が実務に即しているか
最後に、依頼する目的に応じた成果形式(オルソ画像、DSM、点群、TIN、DXF、SHP、3Dモデルなど)が適切に納品されるかを事前に確認しましょう。
- 写真測量:GeoTIFF(オルソ)、LASまたはXYZ(点群)、JPEG/RAW
- LiDAR測量:LAS形式オリジナルデータ・グラウンドデータ、DEM/DTM、DXF/SHP(等高線、構造物抽出)
ドローン測量を成功させるための重要ポイント
ドローン測量は、導入のハードルが下がりつつある一方で、成功には正確な事前計画と現地対応力が求められます。
写真測量・LiDAR測量それぞれの特性と限界を理解し、現場条件や目的に応じた方式を選択することが成果の精度とコスト効率を大きく左右します。また、飛行ルートの計画、事前踏査、現地でのデータ確認といった基本動作を丁寧に実行することで、精度トラブルや再計測リスクを大幅に低減できます。
外部業者に委託する場合も、単に「安い・早い」だけで選ばず、機材性能・技術力・法令遵守体制の3点をしっかり確認することが不可欠です。特に公共性の高い案件では、最終的な成果物の信頼性と正確性が何よりも重要となります。
