DJI Mavic 4 Pro vs Inspire 3|CM・MV・VPでの使い分けと選び方

投稿:2025年5月14日|更新:2026年10月14日著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

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Mavic 4 Proは、4/3型センサーのメインカメラに中望遠・望遠を加えた3眼構成で、6K/60fpsの10-bit D-Log収録に対応する小型機です。小型機としては画質が大きく進化し、ウェブ広告や番組のロケ、MVまで、多くの映像制作で十分に使える機体になりました。

一方で、CMや映画の現場で指定される機体はいまもInspire 3です。理由は「Mavic 4 Proでは画質が足りないから」という単純な話ではありません。収録形式、レンズの選択肢、飛行とカメラワークを分けられる運用体制など、撮影部が求める条件をそろえられるかどうかの違いです。

この記事では、CM・MV・企業VPなどの空撮を数多く手がけてきたTRICO.の現場経験をもとに、両機を広告撮影の判断軸で比較します。

結論:機体を決めるのは「収録形式」「予算」「飛ばせる環境」

先に結論をお伝えすると、広告撮影での機体選定はおおむね次の3点で決まります。

  1. 収録形式:撮影部・カメラマン・DITからCinemaDNGやProRes RAWなどの収録形式が指定されている場合は、それに対応するInspire 3が前提になります。
  2. 予算:収録形式の指定がない、または予算の都合で機材のグレードを一段下げる判断をした場合、Mavic 4 Proが有力な選択肢になります。
  3. 飛ばせる環境:屋内や狭い空間など、Inspire 3を物理的に飛ばせない場所ではMavic 4 Pro(さらに狭ければマイクロドローンやFPV機)を選びます。

これに加えて、TV番組などのロケものは少人数・短時間で移動を重ねる進行になるため、機動力のあるMavic 4 Proが向いています。

撮影現場推奨機体判断のポイント
CM・映画・ドラマInspire 3収録形式・レンズ・2オペ運用が求められる
MV予算と求めるカットで判断車両追従やレンズ選択が必要ならInspire 3、少人数・短時間ならMavic 4 Pro
企業VP・ブランドムービー撮りたいカットで判断4K納品・複数拠点の移動が多い案件はMavic 4 Proも有力
TV番組・ロケもの・ウェブ動画Mavic 4 Pro機動力と現場速度を優先
屋内・狭小空間Mavic 4 Pro/マイクロドローンInspire 3を飛ばせない環境
2オペでなければ成立しないカットInspire 3飛行とカメラワークの独立が必要

Mavic 4 ProとInspire 3の主なスペック比較

広告撮影の判断に関わる項目に絞って比較します(数値はDJI公式仕様の代表値)。

項目Inspire 3Mavic 4 Pro
カメラZenmuse X9-8K Air(35mmフルサイズ)4/3型メイン+1/1.3型中望遠+1/1.5型望遠の3眼
最大解像度8K6K/60fps(メイン)
収録形式CinemaDNG、ProRes RAW、ProRes 422 HQ ほかH.264/H.265(10-bit D-Log、D-Log M、HLG)。H.264 ALL-Iは512GBモデルのみ
レンズ交換式(DLマウント)固定(28mm/70mm/168mm相当)
ジンバル360°パン(ランディングギア上昇時)、上方80°チルト360°ロール、上方70°チルト
運用人数1オペ/2オペ(Pilot+Camera Operator)を選択可能1オペ
最大飛行時間約28分(ランディングギア下降時)約51分
最大速度94km/h約90km/h
最大風圧抵抗離着陸時12m/s、飛行中14m/s12m/s
重量約4kg約1.06kg
障害物検知全方位ビジョン(低照度下では作動しない)全方位ビジョン+前方LiDAR(低照度対応)

カタログ上の数値だけを見ると、飛行時間はMavic 4 Proが大きく上回り、最大速度もInspire 3に迫っています。ただし、広告撮影でどちらを選ぶかは、このスペック差よりも次に挙げる運用面の違いで決まります。

広告撮影での選択基準

画質・収録形式:撮影部の指定から逆算する

CM・映画の現場では、収録形式は撮影部・カメラマン・DITから指定されるのが基本です。グレーディングを前提にCinemaDNGやProRes RAWが指定されれば、DJIの空撮機で唯一CinemaDNGに対応するInspire 3が前提になります。発注の段階では、まず収録形式が決まり、そこから機体が決まるという順序です。

Mavic 4 ProはRAW動画には対応していませんが、10-bit D-Logで収録でき、ウェブ広告や番組用途であれば十分な階調を得られます。収録形式の指定がない案件や、予算の都合で機材を一段下げる判断をした案件では、Mavic 4 Proで撮影を組み立てます。

なお、Inspire 3の収録形式は地上のシネマカメラに近いものの、色の出方やレンズの描写までシネマカメラと同じになるわけではありません。DJIの色味を好まない監督やカメラマンもいるため、空撮カットを本編にどう混ぜるかは撮影部と相談しながら進めます。ProRes収録が必要で予算を抑えたい場合は、ProRes 422 HQで収録できるMavic 3 Pro Cineを選ぶこともあります。

レンズ:交換式の単焦点か、固定の3眼か

Inspire 3はレンズ交換式で、TRICO.ではLAOWA 11mm・14mm、DJI純正の18・24・35・50・75mm、Viltrox 90mmを保有しています。カットごとに画角だけでなく、背景の圧縮感やスピード感、被写体との距離まで選べるのがInspire 3の強みです。

Mavic 4 Proは28mm・70mm・168mm相当の3眼をワンタッチで切り替えられます。1台で広角から望遠まで撮れるのは便利ですが、焦点距離は3つに限られ、背景ボケや奥行きの描写にはセンサーサイズの差が出ます。中望遠・望遠は前モデルのMavic 3シリーズから描写が大きく向上し、TRICO.でも「実用的に使える画質になった」と評価しているポイントです。

フォーカスの扱いにも違いがあります。Inspire 3では電子接点のあるレンズであれば、撮影部のフォーカスプラーがDJI Three-Channel Follow Focusでフォーカス送りを担当できます。シビアなフォーカス送りが必要なカットは、事前に撮影部と相談し、制作部を通じてフォーカスプラーの手配を調整しておきます。Mavic 4 Proはオートフォーカス中心の運用になります。

1オペと2オペ:飛行とカメラワークを分けられるか

Inspire 3の本質的な価値は、2人で操作できることそのものではなく、飛行とカメラワークを完全に独立させられることにあります。パイロットが飛行軌道・速度・高度を担当し、カメラオペレーターが構図だけを担当するため、同じ飛行ルートのまま構図だけを変えることができます。

たとえば車両の追従撮影では、被写体が予定どおりの位置・速度で動くとは限りません。2オペであれば、パイロットは飛行軌道だけを、カメラオペレーターは構図だけを修正できるため、被写体を理想的な位置に保ちやすくなり、水平や構図のズレによる撮り直しも減ります。パイロットが飛行判断に集中できることは、建物や樹木が近い複雑なロケーションでの安全確認にもつながります。

ジンバルの操作は、プロポ、IGNITE DIGIのコントロールデッキ、DJI Force Proをカットや作品に応じて使い分けます。Force Proは普段の雲台と近い感覚で操作できるため、作品のカメラマンがジンバルを直接操作する体制を組むこともあります。

ただし、2オペは常に正解というわけではありません。自然風景のように被写体が動かないカットでは、1人で飛行とカメラを操作したほうがイメージどおりの画になりやすいこともあり、TRICO.ではInspire 3でも1オペを選ぶ場面があります。また、2オペはパイロットとカメラオペレーターの意図がそろっていなければ使える映像にならず、その連携は日々の積み重ねでしか身につきません。

Mavic 4 Proは機体の向きとカメラの向きが連動するため、構図は飛行軌道でほぼ決まります。1人で効率よく撮ることに最適化された機体であり、2オペを前提にした撮影とは考え方が異なります。

関連記事:Inspire 3の2オペ運用、レンズ、RAW収録、予備機体制は「Inspire 3を映画・CM・ドラマ空撮で使う理由|シネマ撮影の実運用」で詳しく解説しています。

ジンバルの表現:360°パンと360°ロール

Inspire 3はランディングギアを上げると機体の脚が画角から外れ、カメラを360°パンさせられます。上方80°までのチルトにも対応し、被写体を見上げるアングルや、機体の進行方向とは別の方向を狙い続けるカットを組み立てられます。

Mavic 4 Proは360°回転するロールジンバルを備え、カメラを横倒しにしたダッチアングルや、画面全体が回転するカットを1人で撮影できます。MVやSNS向けの映像では目を引く表現になりますが、使いすぎると視聴者が酔いやすくなるため、作品全体のトーンと尺を見ながら取り入れるのが前提です。

風と飛行の安定性

最大風圧抵抗のカタログ値は、Inspire 3が離着陸時12m/s・飛行中14m/s、Mavic 4 Proが12m/sと、大きな差はありません。ただし機体重量は約4倍違い、突風を受けたときの姿勢の乱れや画の揺れには差が出やすくなります。

どちらの機体でも、カタログ上の上限まで飛ばせば使える画が撮れるわけではありません。望遠レンズを使うカットほどわずかな揺れが目立つため、風速・突風の予報と現地の状況を見ながら、カットごとに撮影可否を判断します。

向かい風だとスポーツモードでも飛行速度が抑制されます。迎え風だと全開でも70km程度までしかスピードが出ないです。

現場速度:セッティング・バッテリー・移動

Mavic 4 Proはケースから出して数分で飛ばせ、1本のバッテリーで長く飛べます。撮影場所を次々に移動するロケものや、限られた撮影許可時間の中で複数のカットを押さえたい案件では、この現場速度が大きな武器になります。

Inspire 3はレンズの装着や記録メディアの準備、2オペの場合はカメラオペレーター側の機材セッティングも必要になり、飛行準備にはMavic 4 Proより時間がかかります。そのかわり、バッテリーを電源を落とさずに交換できるホットスワップに対応しているため、同じポジションでテイクを重ねる撮影では待ち時間を抑えられます。

屋内・狭小空間と離着陸

屋外の撮影であれば、Inspire 3の離着陸スペースが確保できずに機体選定が変わる場面はそれほど多くありません。機体の大きさが問題になるのは、主に屋内や狭い空間での撮影です。

天井高や通路幅が限られた屋内、構造物に囲まれた場所では、Inspire 3を安全に飛ばすこと自体が難しくなります。こうした環境ではMavic 4 Proを選び、さらに什器の間を抜けるような狭い空間ではマイクロドローン(Cineclover 100 Lite)やFPV機を使います。

障害物検知と夜間の飛行

Mavic 4 Proは前方にLiDARを備え、0.1ルクス程度の暗い環境でも全方位の障害物検知が働きます。Inspire 3のビジョンセンサーは暗い環境では作動しないため、夜間の安全性という点ではMavic 4 Proが一歩リードしています。

ただし、どちらの機体でも電線やケーブルのような細い物体は検知しにくく、障害物センサーはあくまで補助です。映像制作の現場では、ロケハンやテストフライトで飛行経路の安全を確かめ、安全監視を配置したうえで本番に臨みます。

費用:日当の差はどこから生まれるか

TRICO.の料金では、Inspire 3クラスの中型機が1日200,000円〜350,000円程度、Mavic 4 Proなどの小型機が100,000円〜200,000円程度です(いずれも目安で、個別申請費用などは別途)。

この差は機体価格だけでなく、運用に必要な人員と機材から生まれます。Inspire 3では2オペの場合にカメラオペレーターが加わり、交換レンズ一式、記録メディア、監督・撮影部向けのモニター、本番を止めないための予備機まで含めて現場を組みます。Mavic 4 Proは少人数・少機材で完結するため、費用を抑えられます。

関連記事:機体ごとの料金と標準パッケージの内容は「ドローン空撮料金のご案内|TRICO.」をご確認ください。

案件別の使い分け

CM・映画・ドラマ

CMでは、撮影部からの収録形式の指定に加え、絵コンテで決まったアングルを秒単位の尺の中で正確に狙うことが求められるため、Inspire 3が基本です。ドローンは地上カメラやカメラカー、特機では物理的に撮れないカットを担う機材の一つとして、ほかの撮影機材と同じ水準の画質と判断の速さが求められます。Mavic 4 Proを選ぶのは、予算の都合や、屋内などInspire 3を飛ばせない環境などが多いです。

MV

MVは予算規模の幅が大きく、機体選定も案件ごとに分かれます。車両やアーティストを追いながら構図を作り込むカット、レンズの圧縮感やスピード感を活かしたいカットがあればInspire 3を選びます。撮影時間が短く、少人数で多くのシーンを撮り切る必要がある場合や、360°ロールのような表現を取り入れたい場合はMavic 4 Proが有力です。予算の少ない案件では小型機が選ばれます。

企業VP・ブランドムービー

企業VPは編集・グレーディングに割ける予算もCMほど大きくないため、RAW収録を前提としないケースが中心です。複数の拠点を1日で回るような進行ではMavic 4 Proの機動力が活き、工場や施設のスケール感をレンズを選んで見せたい場合や、2オペでなければ撮れないカットがある場合はInspire 3を選びます。機材ありきではなく、撮りたいカットから逆算して決めるのが基本です。

関連記事:企業VPで空撮が効果を発揮するシーンや進行の流れは「企業VP・ブランドムービーのドローン撮影|広告映像で空撮を活かす」で解説しています。

TV番組・ロケもの・ウェブ動画

TV番組のロケやウェブ動画は、少人数のクルーで場所を移しながら撮影を重ねる進行が多く、セッティングの速さと機動力が優先されます。こうした現場ではMavic 4 Proが第一候補です。
中継案件などでは飛行時間も長いためMavic4Proを使うことが多いです。

TRICO.の機材体制とご相談の進め方

TRICO.は東京を拠点に全国対応し、Inspire 3を2機体制で運用しています。Zenmuse X9-8K Airも2台保有し、本番中の機材トラブルでも撮影を止めない体制を整えています。Mavic 4 ProのほかMavic 3 Pro Cine、FPV機(Avata 2、Avata 360)、マイクロドローン(Cineclover 100 Lite)も保有しており、1つの案件の中でカットごとに機体を使い分けることも可能です。

機体をどちらにするか決めきれていない段階でも、収録形式の指定の有無、撮りたいカット、撮影場所、予算感をお知らせいただければ、最適な機体と体制をご提案します。撮影場所の許可取得についてもご相談ください。

よくある質問

Q. Mavic 4 ProでCMは撮影できますか?
A. 可能です。使うことも多いです。ただしCMでは撮影部からCinemaDNGやProRes RAWなどの収録形式が指定されることが多く、その場合はInspire 3が前提になります。収録形式の指定がない案件や、予算の都合で機材を調整する場合はMavic 4 Proでのご提案も可能です。

Q. Inspire 3を選ぶと必ず2オペになりますか?
A. いいえ。2オペは撮影内容に応じて選ぶ体制で、自然風景のように1人で操作したほうがイメージどおりの画を撮りやすいカットでは1オペで運用します。機体の構成や体制は、撮影内容と絵コンテをもとにTRICO.で判断します。

Q. 同じ撮影でInspire 3とMavic 4 Proを併用できますか?
A. 可能です。屋外のメインカットはInspire 3、屋内や移動の多いカットはMavic 4 Proというように、カットごとに機体を使い分ける構成もご相談いただけます。

Q. Mavic 4 Proでも車両の追従撮影はできますか?
A. 可能です。車両など動きのある被写体は、どちらの機体でも自動飛行ではなくマニュアルのスポーツモードで追従します。ただしMavic 4 Proは機体の向きとカメラの向きが連動するため、被写体の動きに合わせて構図まで作り込みたいカットでは、飛行とカメラワークを分けられるInspire 3の2オペが有利です。

まとめ

Mavic 4 Proは小型機として大きく進化し、ウェブ広告やロケもの、MVまで幅広く使える機体になりました。一方で、収録形式・レンズ・飛行とカメラワークの独立が求められるCMや映画の現場では、Inspire 3が基本の機体です。

どちらを選ぶかはスペックの優劣ではなく、収録形式、予算、飛ばせる環境、そして撮りたいカットで決まります。機体選定に迷ったら、撮影内容が固まりきっていない段階でもお気軽にご相談ください。

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著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

ドローンカメラマンとして業界歴10年以上。CM、VR、イベント、産業系とオールジャンルの撮影に携わる。 マイクロドローンから超大型機まで、繊細な飛行技術を有する案件が得意。ドローンVR作品は日本各地で上映中。

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