CM・映画の撮影現場のリアル!ドローン撮影のワークフロー|ロケハンからDITへのデータ納品まで

投稿:2026年4月2日|更新:2026年4月3日著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

撮影技術 ドローン全般

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映画やCMの撮影では、ドローンは単なる空撮機材ではありません。

撮影部のカメラ機材の一つとして扱われ、ロケハンから本番撮影まで計画的に運用しなければなりません。

1カットの成功は、操縦技術だけで決まるのではありません。

ロケハンでのリスク抽出、撮影部との収録設定の同期、そしてDITへの確実なデータ納品。

これら一連の「ワークフロー」が、地上のメインユニットと同じ精度で回って初めて、ドローンカメラマンは撮影現場の一員となります。

本記事では、制作を停滞させないためのドローン撮影の流れと、現場で求められる作法について解説します。

① ロケハン(ロケーションハンティング)

映画やCMのドローン撮影において、ロケハンは単なる下見ではありません。
コンテとカットのイメージを、物理的な制約(地形・日の周り・電波)と照らし合わせ、

「何時、どのレンズで、どのパスを通れば、監督の狙う画が撮れるか」という具体的なカットの打ち合わせの場だと思っています。

飛行環境の解析とリスク抽出

「飛ばせるか」の確認はもちろん、現場のポテンシャルを最大限に引き出すための分析を行います。

太陽の軌道: 時間帯による太陽の位置関係をアプリなど活用して、被写体に対する光の入り方などをシミュレーションします。

地形の把握: ロケーションによってコンテ通りの撮影が可能かどうかを環境に合わせて飛行ルートなどをイメージします。環境によって使用するレンズなども合わせて検討します。

電波環境の可視化: 都市部や屋内環境ではスペクトラムアナライザーを用いて周囲の電波状況を測定し、安定した信号送受信が可能なオペレーションを確定させます。山間部などでは電波特性を加味してオペレーションする場所の選定や飛行ルートの調整を実施します。

機材搬入とオペレーション場所

オペレーションをスムーズにするために本番を見据えて動線の確認もしておきます。

搬入動線とベース構築: 車両からの搬入経路とInspire 3のような大型機材やモニターなど、ベースをどこに配置するか。

モニター送出とプレビュー環境: 監督やカメラマンがプレビューしやすい機材構成をオペレーション場所に配置します。
クライアントモニターに送出する方式は撮影部さんと事前に相談ができればしておくようにしています。

アングルチェックと代替シミュレーション

現場で実際にフライトが可能な場合は、コンテに基づいたテストフライトを行います。

実機によるレンズmm数の検証: 24mm / 35mm / 50mmなど、レンズ交換が可能なInspire 3の特性を活かし、背景の圧縮効果やパースの付き方をその場で確認します。

ドローン不可時の代替案: 施設側の規制や安全上の理由でテストフライトができない場合も、レンズの焦点距離による高度・飛行経路などをイメージしておきます。

②オールスタッフミーティング

プロデューサーや監督を中心に、各部署の責任者が集まる「オールスタッフミーティング」が開催されます。ドローンチームも制作の人に呼ばれたら必ず参加しています。

実施案のフィックス: ロケハンで抽出した課題(電波干渉、気流、地形制限)に対する解決策を提示し、当日の「もしも」を排除した、実行可能な撮影プランを各部署と調整します。

③撮影当日の準備

撮影当日は、監督、カメラマン、DIT、照明、制作、特機など、様々な部署が同時並行で動いています。ドローンチームに求められるのは、現場の進行を停滞させずに早急にシステムを構築することです。

機材車にドローン機材を搭載して撮影現場でセッティングしている様子

収録パラメーターの同期(撮影部・DIT連携)

地上のメインカメラと設定を合わせるために撮影部に指示をもらいます。

収録設定の確認: 解像度(8K/4K)やフレームレートの確認はもちろん、EI(露光指数)の考え方や、使用するLogプロファイル、色温度を撮影部・DITと最終調整します。

収録設定例
8K 16:9 CinemaDNG 23.98fps SS1/100 D-log EI800 WB5600K

飛行前にも撮影部からNDフィルターの指示などをいただくこともあります。撮影部によって方法は様々です。

プレビュー環境の構築と信号送出

監督やカメラマンが、ドローンのアングルを確認できる環境を作ります。

高輝度モニターの設置: 屋外の強い日差しの下でも正確な露出とフォーカスを確認できるよう、高輝度モニターをベースに設置します。TRICO.ではDJI高輝度モニターを使用しています。

DJI高輝度モニターでCM撮影現場のモニタリング環境を最適化
DJI高輝度モニター

機体・安全・通信の最終チェック

フライト直前のチェックは、トラブルを未然に防ぐための「儀式」です。

機体の冗長性確認: Inspire 3のメイン機・予備機の両方をスタンバイ。プロペラ、ジンバル、各種センサーの状態を物理的にチェックします。

通信環境の最終確認: 本番環境で電波干渉がないかを再確認します。個人のWiFiルーターなどがあると伝送が著しく悪くなる場合などがある。

バッテリーマネジメント: 気温やフライト時間を考慮した運用スケジュールを組み、常にフレッシュなバッテリーで本番に臨めるよう 充電環境や保温庫を準備します。

ドローンクルー間のブリーフィング

現場に到着したら現地を確認して、パイロット、カメラオペレーター、そして安全管理スタッフ間で、そのテイクの「狙い」と「限界」を再認識します。

飛行ルートとカメラワークの最終確認: リハーサル前に、カメラワークを確認して本番をイメージした調整をカッメラオペレーターとおこないます。

④ リハーサル

本番前のリハーサルは、ドローンチームにとって「フライト方法」と「演出意図」を完全に一致させる最終確認の場です。特に映画やCMでは、演者の動きや劇車の走行、背景の光量変化など、すべての要素が噛み合う「秒単位の精度」が求められます。

被写体動線と飛行ルートの調整

進入速度と距離感の微調整: 劇車や演者の加速・移動速度に対し、ドローンがどのタイミングで加速し、どの距離感を維持するかなどを検証します。Inspire 3のRTKも活用し、スタートポジションの記録なども行い、再現性の高いフライトパスを構築します。言われなくても先回りで対策しておくのが肝心。

背景の抜け感と画角の追い込み: パイロットが飛行ルートを固める一方で、カメラオペレーターは被写体と背景の重なりなどをチェックします。レンズの焦点距離(mm数)に応じたパースの付き方を確認し、コンテの狙いに対するベストな画角とカメラワークをフィックスさせます。監督、カメラマンとのコミュニケーションが大事です。

各セクションとのコンビネーション確認

キュー出しとタイミングの同期: 監督や制作部による「スタート」のキュー出しに対し、ドローンが定速に達するまでの助走距離や、被写体がフレームインするタイミングを秒単位で逆算し、共有します。人留めや車両規制のタイミングなども重要です。

他部署の安全距離と機材見切れのチェック: レンズを振った際に、地上スタッフや照明機材、制作車両が画に映り込まない(見切れない)限界線を確認します。同時に、ダウンウォッシュによる砂埃や小道具への影響がないかもリハーサル段階でチェックしておきます。

クルー内(パイロット×カメラオペレーター)の意思疎通

2オペレーション体制の真価は、このリハーサルで決まります。

「画」と「安全」の優先順位の共有: パイロットとカメラオペレーターが、リハーサルを通じてショットのイメージを共有します。難易度の高い飛行ルートなどの場合はFPV画面にオペレータが集中する必要もあるのでコンビネーションが重要になります。

緊急回避ルートの最終シミュレーション: 万が一に備えトラブル発生した場合の退避方向を、実際の飛行ルート上で再確認し、本番での迷いを排除します。

リハーサルは「試行錯誤」の場ではなく、「本番での成功を100%にするための検証」です。

⑤ 本番撮影

リハーサルでの微調整を経て、いよいよ本番に臨みます。映画・CMの現場における本番は、やり直しのきかない一瞬の連続です。

TRICO.は、撮影部の一員として「演出意図の完璧な具現化」と「現場進行の最適化」を両立させるために日々努力しています。

2オペレーション体制による精密なカメラワーク

ハイエンドな映像制作において、パイロットとカメラオペレーターの分業は不可欠です。

パイロット: 機体の位置、高度、速度をミリ単位でコントロールします。リハーサルでフィックスしたフライトパスを正確にトレースしつつ、演者のアドリブや劇車の微妙な速度変化に即座に反応し、距離を制御します。

カメラオペレーター: ジンバル操作に専念し、画面内の重心、被写体の表情、背景の抜け感をミリ単位で追い込みます。構図をもとにパイロットへ速度感の指示出しなどもおこないます。

現場の熱量と「同期」するオペレーション

キュー(合図)への即応: 監督の掛け声に対し、機体の加速ラグを計算した秒単位のタイミングで進入します。現場の緊張感を削ぐことなく、ベストなタイミングでフレームインさせる瞬発力が求められます。

画へのこだわり: モニターを確認する監督やカメラマンの横で、そのカットの「成立可否」を即座に判断します。もしわずかでも画が揺れたり、フレーミングが意図から外れた場合は、即座に修正案を提示し、次のテイクでの改善するための対処をします。

香盤を停滞させないスピード感

迅速なリセット: 「カット!」がかかった瞬間、速やかに離脱し、次テイクのためのスタートポイントへ復帰します。バッテリー交換や設定変更を最小限の時間で行い、現場の「待ち時間」をゼロに近づけます。

予備機による冗長性の確保: 万が一、機体や通信にわずかな違和感を感じた場合は、現場の空気を止めることなく、瞬時にバックアップ機への切り替え判断を下します。

⑥データ納品

映画やCMの現場において、ドローンの撮影データは大切な「資産」です。

Inspire3専用のPRO SSDを5本常備。PELICANケースで運搬も安心
SSD5本を常備 PELICANケースにて持ち運び

DITへの受け渡し

DITがいる現場では、ドローンの記録メディアのバックアップをお願いします。

PRO SSD納品: 撮影終了後、またはカードがいっぱいになった時点で、Inspire 3専用の1TB PRO SSDを即座にDITへ渡します。

メディアローテーションと冗長性: 複数のSSDを運用し、「DIT側でのバックアップ完了」を確認してからメディアを再フォーマットするサイクルを徹底しています。5本のSSDで複数日程のデータを管理します。撮影期間中になるべくフォーマットを実施しないようにしてデータの消失リスクを物理的に排除します。

Inspire3のPRO SSD用のPELICANケース。CM撮影現場でのDITへの受け渡し

データを取り違えないように、とにかく分かりやすい運用を心がけています。未収録と収録済でケースの色も変えてクルー全員が間違えない運用ができるように工夫をこらしています。DITさんへ受け渡す際も名前と携帯番号をステッカーで明記しています。

DIT不在現場でのデータマネジメント

現場でのバックアップ: 撮影終了後、その場で制作側のストレージへデータをコピーします

SSDの一時貸出運用: データ量が数テラバイトに及ぶ場合、現地でのコピーが進行を妨げることがあります。その際はSSDを制作側に預け、後日バイク便等で回収する運用にも対応します。

ドローン撮影はチームワークで成立する

ドローンショットは、ドローンチームだけで完結するものではありません。撮影現場という巨大な歯車の一部として、他部署とどれだけ深く連携できるかが、最終的なカットの質を左右すると思います。

演出意図の共有(監督・カメラマン): 「なぜこの高さなのか」「どのタイミングで被写体を捉えるのか」。演出の意図を汲み取り、それを具体的な飛行速度やアングルへ即座に変換します。

技術的な同期(照明・特機・録音): 影の映り込みの回避、地上機材とのバッティング防止、同録への配慮など、各部署のプロフェッショナルが持つ懸念を先回りして解消します。

現場進行の最適化(制作・DIT): タイトな香盤の中で「次、ドローンが何をするか」「スタンバイができているか」を常に明確にし、制作進行を停滞させないスピード感を持って立ち回ります。

ドローンを「特殊な外注機材」としてではなく、「撮影部の一つのパート」として扱っていただきたいので、現場に溶け込むことをTRICO.が現場で最も大切にしているスタンスです。

よくある質問

Q:ドローン撮影は何人で行いますか?

A:映画やCMの撮影では、一般的に 2オペレーション体制 で運用します。
パイロットが機体操作を担当し、カメラオペレーターがカメラワークを担当します。
カットによっては1オペで撮影する場合もございます。

Q:ドローン撮影の準備にはどれくらい時間がかかりますか?

A:撮影内容やロケーションによって異なりますが、現地到着後に20〜30分程度あれば飛行させる状態まで準備が可能です。
機材展開したあとであれば、現場ですぐに飛ばせるようにスタンバイしています。

まとめ

ドローン撮影の流れを理解することは、現場の「不確定要素」を排除することに他なりません。綿密な準備があるからこそ、本番での自由なクリエイティビティが生まれます。

次の記事では、このワークフローを支える中核機材であり、CMや映画撮影において欠かせないDJIのドローン「Inspire 3」の具体的な運用と、レンズ選択がもたらす表現の差について深掘りします。

▶ 次の記事を読む:Inspire 3 空撮|映像制作の要求に応えるシネマドローンの真価

著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

ドローンカメラマンとして業界歴10年以上。CM、VR、イベント、産業系とオールジャンルの撮影に携わる。 マイクロドローンから超大型機まで、繊細な飛行技術を有する案件が得意。ドローンVR作品は日本各地で上映中。

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