映画・CMのドローン撮影現場の体制とは|プロの撮影現場

投稿:2026年4月1日|更新:2026年8月31日著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

撮影技術 ドローン全般

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導入|「飛ばせること」と「撮影体制が組めること」は別の話

CM・映画のドローン撮影は、Pilot(操縦)とCamera Operator(カメラワーク)による2オペレーションを基本に、レンズやカットの条件によってはFocus Puller、現場条件によっては安全監視員・補助者を加えた体制で行われます。発注担当者が発注前に確認すべきなのは「操縦できるか」ではなく、監督・撮影監督の意図したカットを香盤通りに成立させられる「体制を組めるか」です。TRICO.がこれまで2,000件以上のドローン撮影に携わってきた中で痛感しているのは、求められているのが操縦技術そのものというより、それを含めた「撮影に関する理解度」と、それを実現するための人員体制だということです。

結論|CM・映画のドローン撮影で組むべき体制の全体像

CM・映画のドローン撮影で成立させるべき要素は、大きく次の5つです。

  • 作品の演出意図を理解すること
  • 撮影部のカメラワークとして成立させること
  • 意図に沿った操縦技量があること
  • 現場進行に合わせて安全に運用すること
  • 万が一に備えたバックアップ体制を整えること

これらは1人のスーパーマンが担うものではなく、Pilot・Camera Operator・(必要に応じて)Focus Puller・安全監視員という複数人の役割分担によって成立します。次章から、それぞれの役割と、どこまでを何人で担うべきかの判断基準を具体的に見ていきます。

2オペレーション体制の本質|Pilot と Camera Operator の役割分担

CM・映画のドローン撮影は、Pilot(機体の飛行操作)とCamera Operator(ジンバル操作・フレーミング)による2オペレーション体制を基本とします。

  • Pilot:飛行ルートの速度・高度・安全距離・周辺状況の把握など、カメオペと連携して飛行に関する判断に集中します。
  • Camera Operator:構図・被写体の見え方・画面内の重心・見せたいタイミングなど、画づくりに関する判断に集中します。

なぜ「役割分担している」だけでは説明不足なのか

「2人で操縦できるから監督の細かい指示にも対応できる」という説明をよく見かけますが、これは正確ではありません。経験豊富なPilotであれば、1オペでも監督・撮影監督の指示に十分対応できるケースは多くあります。

2オペの本質的な価値は、指示への対応力そのものではなく、飛行ルートを変更せずに構図やカメラワークだけを独立して変更できることにあります。2オペでしか撮影できないアングルなど、同じ飛行ルートでも、Camera Operatorの判断だけで多様な画づくりが可能になるため、演出変更への柔軟性が上がります。

逆に言えば、2オペ体制を組んでいても、PilotとCamera Operatorそれぞれの技術が不足していれば良い映像にはなりません。重要なのは「2人であること」自体ではなく、飛行とカメラワークを完全に独立させられる体制と技術です。

2オペで初めて成立するカット(被写体追従・撮り直しリスク・複雑ロケーション)

2オペが特に効いてくるのは、次のような条件のカットです。

  • 被写体が動いている場合:車両や人物が対象となる撮影では、Pilotが飛行軌道、Camera Operatorが構図を個別に修正することで、被写体を画面内の理想的な位置に維持しやすくなります。
  • 一度のテイクで意図した画を成立させたい場合:飛行と構図を別々に最適化できるため、水平のズレ・構図のズレ・パン/チルト不足といった失敗が減り、撮り直しになるリスクを抑えられます。
  • スタッフ・演者との距離が近い、または障害物が多い複雑なロケーションの場合:Pilotが飛行判断だけに集中できることで、安全確認に割ける余裕が生まれます。

これらはいずれも「役割分担しています」で終わらせず、具体的にどのカットで何が成立しやすくなるのかまで理解した上で体制を組む必要がある部分です。

特に車のCM撮影などでは今まで携わってきた案件では必ず2オペ体制で実施してきました。また、2オペの組み合わせがいつも同じ会社の方が精度の高いカットが撮れると思います。
日頃の練習を一緒にこなしていない人とペアを組んでもいい撮影はできないです。

Focus Pullerが必要になる条件|2オペで足りるカットと3人目が必要なカット

2オペで対応できる現場がある一方で、Focus Puller(フォーカス送り担当)を加えた3人体制が必要になる現場もあります。判断基準になるのは、レンズと収録条件です。

TRICO.が運用するDJI Inspire 3では、Zenmuse X9-8K AirにDL 18/24/35/50/75/90mmなどの単焦点DLレンズを組み合わせます。DJI Three-Channel Follow Focusを使えば、電子接点を持つDLレンズに限り、フォーカス・アイリスを遠隔操作できます(Inspire 3ではズームの遠隔操作はできません)。この構成では、被写体との距離が撮影中に変化するカットや、絞りを開けて被写界深度を浅くしたカットで、Camera Operatorがフレーミングに集中したままFocus Pullerがピントを追従させることで、精度の高い画づくりが可能になります。

一方で、LAOWA 11/14mmのような電子接点を持たないマニュアルフォーカスレンズは、そもそもフォーカス送りの対象になりません。この場合は地上で絞りを露出に合わせ、フォーカスは無限遠に固定して飛行する運用が前提になるため、Focus Pullerを立てる判断軸そのものが変わります。

Focus Pullerを加えるかどうかを検討する目安は、次のとおりです。

  • 被写体との距離が撮影中に大きく変化するカット
  • 浅い被写界深度でピントを追従させ続ける必要があるカット

Focus Pullerは、ドローン撮影側から提供できる人員ではありません。撮影部側で手配していただく役割です。ドローンのPilot・Camera Operatorとは別に、撮影部のスタッフをアサインしていただく必要があるため、Focus Pullerが必要になりそうなカットがある場合は、事前に制作部・撮影部との間で人員調整をお願いしています。

歌唱終わりのカットではFocus Pullerに入っていただきました。

安全監視員・補助者が必要になるケース

CM・映画のドローン撮影は、基本的にはPilot・Camera Operatorの2オペで対応できます。ただし、難易度の高い撮影では、この2人に加えて安全監視員・補助者をアサインすることがあります。安全監視員・補助者は、機体周辺の安全確認、周囲の人・車両・障害物の把握、Pilotへの情報提供や退避指示を担当する役割です。

安全監視員を追加するかどうかは、ロケハンの段階で飛行ルートを確認したうえで判断します。実際に、車のCM撮影で木々の間を縫うように飛行させる必要があり、Pilotから死角になる位置まで機体を飛ばさなければならなかった案件では、Pilot・Camera Operatorに安全監視員を加えた3人体制で撮影を実施しました。状況によって必要性が変わるため、飛行ルートが複雑になりそうな案件では、ロケハンの時点で人員追加の要否をあわせてご相談しています。

なお、安全監視員は制作会社側のスタッフに担当していただくケースもありますが、ドローンの飛行特性を理解しないまま安全確認を担当すると危険な判断につながりやすく、責任の所在も曖昧になります。そのため、可能な限りTRICO.側で安全監視員を用意する体制を基本としています。

監督・撮影監督とのコミュニケーション

収録設定確認からリハーサル・本番までの3段階

撮影当日の流れは、大きく3段階に分かれます。

  1. 収録設定・カット内容の確認:監督・撮影監督・DIT・撮影部と、解像度・フレームレート・コーデックなどの収録仕様とショット内容をすり合わせます。
  2. アングルチェック/リハーサル:位置と見せ方を確認しながら、フライト可能範囲・安全距離・最接近距離を同時に詰めます。リハーサルはショットの精度を上げるだけでなく、Pilot・Camera Operator(・Focus Puller)がカメラワークのタイミングや速度感を合わせる場でもあります。
  3. 本番撮影:飛行の安定だけでなく、演者のタイミング・照明の状態・現場進行とのシンクロを判断しながらショットを成立させます。

予備機体制が必要な理由

CM・映画のスケジュールは非常にタイトです。ドローン機材のトラブルは撮影全体の進行に波及するため、次のような予備体制を整えます。

  • 予備機体
  • 予備ジンバル
  • バッテリー・SSD複数セット

TRICO.ではDJI Inspire 3を2機体制で運用し、機材トラブルが発生しても撮影を止めないことを優先しています。空撮機材そのものについてはDJI Inspire 3を使用した空撮|映画・CM・ドラマのドローン撮影で詳しく解説しています。

最新のドローンは以前に比べて機材トラブルが大幅に減っています。それでも、10年以上ドローン撮影の現場に携わってきた経験から、本番環境で初めて発生する予期せぬトラブルがあることも理解しています。

そのためTRICO.では、重要な撮影では原則として同一機種の予備機を現場に持ち込みます。単に故障時の代替機として用意するだけではありません。同じ環境で別の機体を起動・飛行させることで、問題が「機体固有のものなのか」「電波やGPSなど現場環境に起因するものなのか」を切り分けて判断できます。

予備機を用意することは、撮影を止めないための保険であると同時に、トラブル発生時に原因を冷静に判断するための重要な運用体制だと考えています。

フライトプランの中身

体制が整っていても、フライトプランが曖昧では現場は成立しません。事前に整理すべき項目は次のとおりです。

  • フライトパス:カット割から逆算した飛行ルート・高度・速度などを整理し、被写体の動線とカメラワークを両立させます。
  • カメラワーク:構図の変化・被写体との距離感・見せ場のタイミングを整理します。
  • 安全距離のチェック:演者・スタッフ・車両・建物・障害物との距離を確認して飛行ルートに反映させます。
  • セーフティゾーンの設定:機体トラブル時の退避方向と着地点を事前に決めておきます。

本番前には、プロペラ・本体の状態、バッテリー残量と電圧、カメラ・ジンバルの動作、収録設定を最終確認します。

ロケハンからDIT納品までの現場フロー全体はCM・映画の撮影現場のリアル!ドローン撮影のワークフロー|ロケハンからDITへのデータ納品までで解説しています。

発注前に整理しておきたいこと

撮影のご相談をいただく際、あらかじめ次の点を整理しておいていただけると、より的確な人員編成とお見積りをご案内しやすくなります。

  • 撮影対象(人物・車両・風景など)
  • ロケーション条件(場所など)
  • 収録設定(DNG/ProRes/H264、8K/6K/4K)
  • 撮影日数・スケジュール(予備日の有無)
  • 予算感

これらが撮影前に完全に固まっていなくても構いません。ロケハンや事前の打ち合わせの中で、TRICO.側から確認しながら体制を詰めていくことも可能です。

CM・映画・ドラマ全体の費用の考え方はドローン撮影の費用相場・見積内訳|CM・映画・広告はなぜ高くなる?
TRICO.の料金体系はドローン空撮料金のご案内でそれぞれ解説していますので、体制の検討とあわせてご確認ください

案件規模別|体制編成の目安(2人〜5人)

どこまでの人数を組むべきかは案件条件によって変わります。目安は次のとおりです。

体制構成向いている現場
2人Pilot+Camera Operator飛行ルート・カメラワークが比較的シンプルで、周辺に障害物・人出が少ない現場
3人(Focus Puller追加)Pilot+Camera Operator+Focus Puller被写体との距離が変化する、または浅い被写界深度でのピント送りが必要な現場
3人(安全監視員追加)Pilot+Camera Operator+安全監視員死角になる位置への飛行が必要、障害物が多いなど、飛行の安全確認に専任者が必要な現場
4〜5人Pilot+Camera Operator+安全監視員+Focus Puller(+制作進行との連携担当)複雑なカメラワークと安全管理の両方が求められる大規模ロケ

人数はあくまで目安であり、実際の編成はロケハンの結果とカメラワークの要求から個別に判断します。なお、Pilot・Camera Operator・安全監視員はTRICO.側で用意する体制ですが、Focus Pullerのみ撮影部側での手配が前提となる点にご注意ください。

Inspire3を2機常備してバックアップ体制を構築しておく。ナンバリングもして視認性を向上

ドローン撮影会社の体制を確認するときに見るべきポイント

発注前に確認しておきたいポイントは次のとおりです。

  • 撮影部と技術的な連携ができるか(カット意図・尺感・構図・被写体との距離感を理解した会話ができるか)
  • 2オペ体制、および必要に応じた安全監視員の追加に対応しているか
  • 映像制作向けの機材(RAW収録・フォーカス送り・レンズ交換対応)を保有しているか
  • 予備機・バックアップ体制があるか
  • 安全管理の考え方を具体的に説明できるか

機材スペックや資格の有無だけを基準にすると、実際の現場で対応できない体制であるケースが出てきます。何人でどの役割を担うのか、どこまでの人員を追加できるのかまで確認することをおすすめします。ドローン撮影会社そのものの選び方はドローン空撮会社の選び方|選定基準とプロに依頼するメリットでも詳しく解説しています。

CMの演出・費用まで含めた全体像はドローン撮影CMを成功させる演出と現場実務・費用について解説を、映画・ドラマにおける制作部との連携は映画のドローン撮影|制作部との連携と現場の注意点について解説をあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. 映画やCMのドローン撮影は必ず2人以上で行うのですか?
A. 経験豊富なPilotが1人で対応できるケースもあります。ただし、被写体が動く場合や演者との距離が近いカットでは、2人以上でのオペレーションが望ましい場合も多くございます。

Q. Focus Pullerは毎回必要になりますか?
A. 毎回ではありません。パンフォーカス運用や、無限遠に固定して飛行するレンズを使うカットでは不要です。被写体との距離が変化する、浅い被写界深度でピントを追い続ける必要があるカットで検討します。なお、Focus PullerはTRICO.から提供できる人員ではなく撮影部側で手配をお願いしております。

Q. 安全監視員は2オペとは別料金になりますか?
A. 安全監視員はCamera Operatorとは別の役割であり、現場条件(人出・障害物・飛行ルートの複雑さ)によって必要人数が変わります。案件ごとに個別にご案内しますので、まずはご相談ください。

Q. 監督から現場で細かい指示が変わることがありますが、対応できますか?
A. リハーサルの段階で監督・撮影監督とアングルやタイミングをすり合わせた上で、本番中もモニターとインカムを通じてリアルタイムに情報を共有しています。必要に応じて柔軟に対応します。

Q. 体制の人数によって料金は大きく変わりますか?
A. 安全監視員などの追加人員次第で人件費は変動します。具体的な費用感はドローン撮影の費用相場・見積内訳ドローン空撮料金のご案内をご覧いただいたうえで、体制も含めてご相談ください。

まとめ

CM・映画のドローン撮影で発注前に確認すべきなのは、操縦できるかどうかではなく、その現場に合った体制を組めるかどうかです。Pilot・Camera Operatorの2オペを基本としながら、レンズと画づくりの要求に応じてFocus Pullerを加えるかどうかを判断し、安全監視員はCamera Operatorとは別の役割として必要人数を見積もる。そのうえで、監督・撮影監督とリアルタイムに連携できるモニター・伝送・インカムの仕組みを持っているか。この体制の中身まで確認いただくことで、現場で対応できるかどうかの見極めがしやすくなります。体制のご相談は、案件の規模や条件が固まっていない段階でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。

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著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

ドローンカメラマンとして業界歴10年以上。CM、VR、イベント、産業系とオールジャンルの撮影に携わる。 マイクロドローンから超大型機まで、繊細な飛行技術を有する案件が得意。ドローンVR作品は日本各地で上映中。

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