CM・映画のドローン撮影で安全監視員・補助者が必要な理由|役割・人止めの分担・求められるスキル

投稿:2025年3月26日|更新:2026年10月19日著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

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ドローン撮影の現場では、操縦するパイロットも、構図をつくるカメラオペレーターも、多くの時間をモニターの映像に向けています。そのあいだ機体そのものと周囲の状況を見続けるのが、安全監視員(航空法上の「補助者」にあたる役割)です。

CM・映画の撮影は、演者やスタッフが多く、ロケ地によっては通行人や車両もいる環境で行われます。この記事では、TRICO.がCM・映画の現場で組んでいる安全体制をもとに、安全監視員が担う役割、制作部との人止めの分担、求められるスキルと現場での取り決めを解説します。

安全監視員・補助者の役割

航空法上の「補助者」

国の許可・承認を受けてドローンを飛ばす際の手順を示した国土交通省の「航空局標準マニュアル」では、安全確保に必要な人数の補助者を配置して相互に安全確認を行うこと、補助者が飛行範囲に第三者が立ち入らないよう注意喚起を行うことが定められています。国の検討資料では、補助者の役割が次の4つに整理されています。

  • 第三者の立入管理
  • 有人機などの監視
  • 自機(飛ばしている機体)の監視
  • 自機周辺の気象状況の監視

撮影現場で安全監視員が担うこと

TRICO.の現場では、この補助者の役割を、ドローンの運用を理解したスタッフが「安全監視員」として担います。具体的には次のとおりです。

  • 機体の位置と、周囲の障害物(木・電線・建物)との距離を確認してパイロットに伝える
  • 飛行範囲に近づく通行人・車両・鳥などを把握し、必要なら停止を指示する
  • 風の変化など、現場の気象状況を見る
  • 着陸地点の安全を確認し、周囲に着陸を知らせる
  • 飛行中のパイロットに話しかけてくる通行人などに対応する

パイロットが飛行に、カメラオペレーターが画づくりに集中できるのは、機体の周りを見続ける人がいるからです。


パイロットとカメラオペレーターだけでは足りない理由

2オペ撮影では、2人とも撮影操作に集中している

パイロットとカメラオペレーターの2オペレーションで撮影する場合、カメラオペレーターはモニターを見ながら構図やカメラワークを操作します。視線は常に画面の中にあり、機体の周囲を見る余裕はありません。パイロットも、飛行映像と機体を行き来しながら操縦しているため、周囲すべてを見続けることはできません。

2人とも撮影そのものに手がふさがるため、機体の外側を見続ける人がいなくなります。2オペが必要な撮影で専任の補助者を加えるのは、このためです。

機体は一度目を離すと見つけにくい

ドローンは、パイロットから離れるほど小さくなり、見失いやすくなります。近い距離でも、背景が空なら機体の位置をつかみやすい一方、背景が山や森になると機体が景色に溶け込み、どこにいるのかわからなくなることがあります。そして一度目を離すと、もう一度見つけるのは簡単ではありません。

だからこそ、撮影のあいだ機体から目を離さずにいられる人が必要です。

経験のある人が担うと、パイロットが安心して飛ばせる

安全監視員は、機体がこれからどちらへ動くのか、どのくらいの距離で止まれるのかを理解していないと、何をいつ伝えるべきか判断できません。現場経験が豊富な人が担えば、パイロットは安心して飛ばすことに集中できます。着陸後の段取りなど現場での動き方もわかっているため、チーム全体の負担も減ります。

そのためTRICO.では、なるべく同じような経験値を持つスタッフに安全監視員を任せるようにしています。制作会社側のスタッフに担当していただくケースもありますが、補助者を加える場合は、可能な限り自社のスタッフで対応しています。

3人目の補助者を加える判断

TRICO.の撮影は、2名体制で伺う案件が多くあります。すべての撮影に専任の補助者が必要なわけではありません。ただ、2オペでなければ成立しない撮影では、パイロットとカメラオペレーターに専任の補助者を加えた3名体制の方が、より安全に撮影を進められます。

一方で、人員が増えればその分費用もかかり、制作予算に関わります。そのためTRICO.では、企画とカット、ロケ地をもとに、ロケハンなどで飛行ルートを確認したうえで、本当に必要な場合に制作部へ補助者の追加をご提案しています。判断の材料になるのは、次のような条件です。

  • 2オペでなければ成立しないカメラワークがある
  • 機体がパイロットやカメラオペレーターから見えない位置(死角)に入る
  • 機体との距離が離れる、または背景が山や森で機体を見失いやすい
  • 木々や電線、建物など、機体の近くに障害物が多い
  • 公道沿いや観光地など、通行人・車両の出入りがある
  • 飛行範囲が広く、人止めのポイントが複数になる

たとえば、車のCM撮影で木々の間を縫うように飛ばし、カメラオペレーターから死角になる位置まで機体を入れる必要があった案件では、パイロットとカメラオペレーターに補助者を加えた3名体制で撮影しました。

第三者の立入管理と人止め|制作部との役割分担

撮影に携わる人は「関係者」

航空法でいう第三者とは、ドローンの飛行に関与していない人を指します。国土交通省の資料でも、映画・CMの撮影における俳優やスタッフは、第三者にあたらない例として挙げられています。撮影現場で関係者にあたるのは、次の人たちです。

  • パイロット・カメラオペレーター・補助者などのドローンチーム
  • 監督、撮影部、制作部などの撮影スタッフ
  • 演者

立入管理と、人が入ったときの対応

飛行経路の下に第三者が入らないようにする措置を「立入管理措置」といいます。補助者の配置のほか、看板やコーンなどで立入管理区画をはっきり示し、第三者の立入りを確実に制限できる場合は、補助者の配置に代えることも認められています。

それでも、飛行中の機体の下に人が入った、または入るおそれがあると確認したときは、ただちに飛行を停止し、経路変更や安全な場所への着陸などの措置をとることが航空法で定められています(罰則規定あり)。また、第三者の上空を飛行して撮影したカットは、作品に使用できなくなる可能性もあります。人止めの体制があっても、最後に止める判断はドローンチームが持っています。

制作部とドローンチームの分担

CM・映画の現場では、次のような分担で第三者の立入管理を行うのが一般的です。

項目主な担当
飛行範囲と、機体の落下を想定した立入管理範囲の設定ドローンチーム
人止め(通行人・車両の誘導)制作部(警備員を立てる場合も)
看板・コーンなどの設置制作部
「飛ばす・止める」の判断ドローンチーム(パイロット・安全監視員)
合図と連絡手段両者で事前に取り決める

公道や公園で通行を止める場合は、道路使用許可や施設管理者の許可など必要な許可を取得したうえで、警備員を立てて行います。許可の取得は、制作部やロケーションコーディネーターが担う場合もあります。人止めのポイントが複数ある現場では、どこまで止まっていれば飛ばせるのかを安全監視員と人止め要員が無線やインカムで共有し、条件がそろわなければ飛ばさない、という運用で進めます。

人止めと機体監視の関係

人止めは地上の人に、機体の監視は空の機体に目を向ける仕事のため、同じ人が両方を同時に見続けることはできません。ただ、現場の状況によっては、安全監視員が機体を見ながら人止めを両立させることもあります。

撮影中は、飛行中のパイロットに通行人が話しかけてくることもあります。パイロットは操縦から意識を外せないため、こうした対応も安全監視員が引き受けます。

オープンな場所で撮影しているとドローンパイロットは結構な頻度で話しかけれらます。

安全監視員に求められるスキル

ドローンと航空法の知識

  • 一定時間以上の操縦経験があり、自身もドローンの運用業務に携わっていること
  • 当日飛ばす機体の扱いに慣れていること
  • 現場で警察官に声をかけられたときに、許可内容や飛行の根拠を説明できる程度の航空法の知識があること

状況判断力

状況は刻々と変わります。目の前の変化を正確につかみ、止めるべきか、続けてよいかを判断する力が求められます。トラブルのときほど、冷静で素早い判断が必要です。

伝える力

見たことを短く正確に伝え、パイロットや撮影スタッフからの指示を正しく受け取る力です。情報が多すぎても少なすぎても、パイロットの判断を妨げてしまいます。

集中力と注意深さ

撮影は長時間に及びます。テイクを重ねても集中を切らさず、小さな変化を見逃さない注意深さが欠かせません。

安全を高める現場の取り決め

指示言語を統一する

パイロットと安全監視員のあいだで使う言葉をそろえておくことは、安全性を大きく左右します。たとえば「さがって」と言われても、高度を下げるのか、機体を後ろへ動かすのか、パイロットは瞬時に判断できません。2オペで撮影するときのカメラオペレーターとの連携でも同じことがいえます。

TRICO.で使っている指示の一例です。

場面指示の例
降下させる「高度さげー」「下部クリアー」「木まで〇〇m、3、2、1、停止」(マージンをとって伝える)
後進させる「バックOK」「後方クリアー」
周囲に障害物がない「周囲クリアー」「右方向クリアー」
周囲に障害物がある「前方障害物あり」「右前方電柱注意、高度あげー」
後進しながら上昇している「上昇OK」「上昇そのまま」「上昇率あげー」(上昇が足りず障害物に近づきそうなとき)
着陸する「着陸地点クリアー」(パイロットへ)、「着陸します」(周囲へ)
鳥が近づいてきた「鳥接近注意」「鳥接近、上昇して」「鳥離脱、クリアー」
目視外になる「目視外まで〇〇秒、3、2、1、目視外です」→以降はパイロット側で管理
緊急停止「停止、停止」または「ストップ、ストップ」

危ないと感じたら、安全監視員が迷わず止めることが大切です。なぜ止めたのかは、止まったあとに伝えれば十分です。

事前ブリーフィングと現地確認

飛ばす前に、必ず次の2つを行います。

  • 飛行計画の共有:飛行ルートや機体の動き出す方向をパイロットから共有し、安全監視員の意見も聞きます。当日の連絡体制や、緊急時の対処方法もここで確認します。
  • 現地確認:パイロットと安全監視員、運航に関わるスタッフで現地を歩き、障害物や注意点を共有します。

機体の動きや緊急時の動き方がわかっていないと、監視する側も何を伝えればよいのか迷ってしまいます。

ロケハンから撮影当日までの流れは、CM・映画ドローン撮影のワークフロー|ロケハンからDITへのデータ納品までで解説しています。

パイロットから安全監視員に伝えておくこと

息の合った連携には、パイロット側がはっきり意思表示することが欠かせません。難しい撮影では、普段から組んでいるメンバー同士でも事前に打ち合わせをします。

  • 飛行中にどんな情報がほしいか
  • 伝える頻度の好み
  • 機体を動かす前に、移動方向を安全監視員に伝えてから操作すること
  • どんなに小さな気づきでも伝えてほしいこと

撮影中のパイロットは、安全監視員の声に加えて監督やカメラオペレーターの声も聞き分けながら飛ばしています。パイロット自身の情報処理能力も問われる部分です。

現場で頼りになる安全監視員、避けたい動き

頼りになる動き

  • 状況を逐一伝えつつ、操縦の邪魔にならないタイミングで話す
  • 無言にならず、機体の状況がわからない空白の時間をつくらない
  • パイロットが顔を上げたら、機体の位置を指さしで示す
  • 監督やカメラオペレーターからパイロットへの指示を聞き、機体の動きを先読みできる
  • 着陸後にバッテリー交換、レンズ交換、ND交換のどれをするかを読み、先に動ける

避けたい動き

  • モニターの映像ばかり見て、機体を見ていない(経験の浅い人に多い)
  • トラブルのときに慌ててしまう
  • 指示を待つだけで、自分から動かない

モニターばかり見てしまうと、安全監視員を置いている意味がなくなります。緊急時には、パイロットから見えない周囲の状況を判断し、冷静に伝えることが求められます。

安全監視員が現場で使う機材

無線インカム(Hollyland Solidcom C1 Pro) 離れた位置にいても同時に会話できるインカムは、安全監視員にとって欠かせない機材です。音声がクリアで、至近距離で話しても遅延が気にならず、ヘルメットの上からも装着できるため、TRICO.の現場で使っています。

モニター(DJI SDR Transmission) 無線でつながったモニターがあると、機体の位置を把握しやすくなります。有線でもかまいませんが、動ける範囲が限られます。TRICO.ではDJI SDR Transmissionを使っており、iPhoneでも映像を確認できます。

安全体制のご相談について

補助者を加えるかどうかは、企画やカット、撮影場所を見て判断します。ロケハンを待たずに、企画とカットの段階でTRICO.から体制をご提案することもあります。安全体制を含めたご相談は、企画の段階からお気軽にお寄せください。

よくある質問

Q. 安全監視員は毎回必要ですか?
A. 毎回ではありません。TRICO.の撮影は2名体制で伺うことが多く、専任の補助者を加えるのは、2オペでなければ成立しない撮影で難易度が高いものなど本当に必要な場合です。企画やカット、ロケ地をもとに、死角の有無や障害物、通行人の出入りなどを確認し、必要と判断したときに制作部へご提案しています。

Q. 制作部のスタッフが安全監視員を兼ねることはできますか?
A. 制作部の方に担当していただくケースもあります。ただ、安全監視員は機体の動きを理解したうえで判断する役割のため、補助者を加える場合は、なるべく同じような経験値を持つ自社のスタッフで対応しています。

Q. 演者やスタッフも立入管理の対象になりますか?
A. 撮影に携わる演者・スタッフは関係者のため、第三者にはあたりません。立入管理の対象になるのは、通行人や見物人などです。演者・スタッフと機体の距離感は、リハーサルで確かめながら詰めていきます。

Q. 撮影中に見物人が集まってきたらどうなりますか?
A. 飛行範囲の下に人が入った、または入りそうなときは、ただちに飛行を止め、安全な場所へ着陸します。航空法でも定められた対応です。人止め要員と連携して範囲が確保できてから撮影を再開します。

Q. 安全監視員を加えると費用は変わりますか?
A. 人員が増える分、費用は変わります。そのため補助者の追加は、ロケハンなどで本当に必要と判断した場合にご提案しています。料金の目安はドローン空撮料金のご案内をご覧ください。

まとめ

安全監視員は、パイロットとカメラオペレーターがモニターに集中しているあいだ、機体と周囲を見続ける専任の要員です。撮影は2名体制で伺うことが多いものの、2オペが必要な撮影では専任の補助者を加えた3名体制の方がより安全に進められるため、企画やカット、ロケ地から判断してご提案しています。人止めは制作部、飛行範囲の設定と止める判断はドローンチームという分担で、第三者が入らない環境をつくります。

そして安全監視員は、ドローンの動きを理解し、適切なタイミングで適切な言葉を伝えられて初めて機能します。誰が担っても同じになる役割ではありません。TRICO.では、指示言語の統一や事前ブリーフィングを含めて安全体制を組み、撮影を進めています。

ロケ地の条件が固まっていない段階でも、安全体制のご相談を承ります。お気軽にお問い合わせください。

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著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

ドローンカメラマンとして業界歴10年以上。CM、VR、イベント、産業系とオールジャンルの撮影に携わる。 マイクロドローンから超大型機まで、繊細な飛行技術を有する案件が得意。ドローンVR作品は日本各地で上映中。

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