映画撮影に変革をおこし続けるドローン撮影技術と事例紹介

投稿:2025年10月30日|更新:2025年10月30日著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

撮影技術

近年、映画制作においてドローンを活用した撮影が増えています。

ドローンを使うことで、これまでのカメラワークでは難しかったダイナミックな映像表現が可能になり、作品のクオリティを大きく向上させます。

クオリティと表現の幅を広げたドローンによる映画撮影は、映像表現の新たなスタンダードといえます。

こちらでは、映画撮影に変革をもたらしたドローン撮影の技術と事例についてご紹介いたします。

ドローンによる映画撮影で確立された映像表現の新たなスタンダード

ドローンによる映画撮影で確立された映像表現の新たなスタンダード

かつて映画の空撮といえば、ヘリコプターやクレーンといった高額かつ大掛かりな機材を用いるのが一般的でした。その後、低コストで空撮を実現するラジコンヘリコプターの活用が進み、やがてドローン技術が登場したのは今からわずか14~15年前のことです。

当初はシネマカメラを搭載するため、自作の大型ドローンを駆使した撮影が主流でした。しかし現在では、搭載可能なカメラ性能が飛躍的に向上し、地上のシネマカメラに匹敵する映像品質での撮影が可能になっています。

こうしてドローンは映画やドラマの撮影に欠かせない技術として定着し、作品のジャンルを問わず、壮大なワイドショットから情感豊かな情景描写、アクションシーンのダイナミックなカットに至るまで、幅広く活用されています。

また、Netflixが認定カメラとして初めてDJI製のInspire3とZenmuse X9-8K Airを採用したことも、作品制作におけるドローン活用の制限が広がった大きな転換点といえるでしょう。

ドローンを活用した有名映画作品の撮影事例

ドローンを活用した有名映画作品の撮影事例

ドローンは既に多くの有名映画・ドラマで重要な役割を果たしており、単なる空撮を超えて物語性やキャラクターの心理を効果的に表現する映像要素となっています。従来の機材では難しかった、壮大な自然描写、アクロバティックなアクションシーン、緊迫感あふれる追跡カットなども、ドローンの柔軟な動きによって手軽かつ精緻に実現できるようになりました。

初期の大作映画でのドローン活用

「007スカイフォール」(2012年)

ジェームズ・ボンドシリーズ23作目。本作は、同シリーズとして初めてドローンによる空撮を本格的に取り入れた作品として知られています。従来、迫力ある俯瞰映像はヘリコプターによる撮影に依存していましたが、ドローンの導入によってより自由度の高いカメラワークが可能になりました。特にトルコ・イスタンブールでの冒頭の追跡シーンでは、従来では難しかった建物間を縫うような低空飛行の視点や、アクションに寄り添う滑らかな移動ショットが実現されています。

この表現は、観客に「アクションの中に入り込むような没入感」を与え、ボンド映画特有のスケール感を新しい形で強調する効果をもたらしました。また、製作費や安全面でもヘリコプター撮影に比べ効率的で、以降のハリウッド大作におけるドローン導入の先駆けとなったといえます。ドローン撮影は当時まだ黎明期にありましたが、『スカイフォール』はそれを実用レベルで成功させた象徴的な事例と位置づけられています。

ワンカット撮影で話題を呼んだ作品

Adolescence(2025年)

イギリス発のNetflixオリジナルシリーズ。本作は、全エピソードがワンテイクで撮影されるという斬新な試みに挑戦したことで話題を呼びました。特に第2話の終盤では、ドローン技術が物語の緊張感を一段と引き上げています。シーンは学校から犯行現場へと移る場面で、手持ちカメラからドローンにシームレスに映像が切り替わり、およそ0.3マイル(約480m)にわたる飛行撮影が展開。その後、再びグリップチームが受け継ぐことで、カメラは途切れることなく人物とストーリーを追い続けます。

この技法の革新性は、単なる空撮にとどまらず「時間の連続性」を保ちながら移動範囲を大幅に拡張した点にあります。従来のワンテイク作品では制約となっていた「場面転換の制御」を、ドローンが解決することで、物語のスケール感とリアリティが両立。加えて、主人公たちが感じる緊張や焦燥を視聴者が身体感覚的に追体験できる仕掛けとなっています。

『Adolescence』は、映画的表現とドラマ的連続性を融合させた稀有な試みであり、ドローン撮影が映像美だけでなく叙事的効果を担うことを示した最新の好例といえるでしょう。

日本発の世界的ヒット作品

地面師たち(2024年)

日本発のNetflixオリジナルシリーズ。本作の冒頭では、事件現場へと視聴者を導く重要な導入部にドローンが活用されています。都心の一等地にそびえる雑居ビルを目指して、街の俯瞰から低層の街並みへ、さらにビル群の谷間を縫うように下降していくワンカット映像は、まるで都市空間そのものが物語の一部であるかのような効果を生み出しています。

この手法によって、作品が描く「不動産詐欺」というテーマと都市の密接な関わりが視覚的に表現され、観客は冒頭から世界観へ強く引き込まれます。従来の日本ドラマでは、限られたロケーションや静的なカメラワークが多用される傾向にありましたが、ドローン撮影の導入は都市のダイナミズムを生かした新しい映像表現を提示しました。

また、序盤のワンカットは単なる導入以上に「舞台設定の説明」と「臨場感の付与」を同時に果たしており、ストーリーテリングの効率性と芸術性を兼ね備えた重要なシーンといえます。『地面師たち』は、社会派ドラマにおけるドローン表現の可能性を示す、国内制作として注目すべき事例となりました。

これらの作品に共通しているのは、ドローンが単なる「映像美」を追求する道具にとどまらず、物語に緊張感や臨場感を与える演出ツールとして活用されている点です。ドローン特有の流動的な動きや多彩なアングルは、観客をストーリーの中へと引き込み、まるで物語の現場に立ち会っているような感覚を生み出します。

加えて、ドローンは限られた時間や予算の中で効果的な映像を実現できる実用的な手段でもあり、現代の映像制作における不可欠な選択肢となりました。その結果、撮影スタッフはこれまで以上に大胆かつ創造的な挑戦を可能にし、映像表現のクオリティと多様性は飛躍的に広がっています。

映画制作におけるドローン撮影で押さえておきたい重要ポイント

ドローンによる空撮は、単に機体を飛ばしてカメラを回すだけでは成り立ちません。それは、カメラそのものが三次元空間を自在に移動し、被写体との距離や角度を絶えず変化させる、極めて高度な撮影機器だからです。作品のシーンやキャラクターの心理に合わせて飛行ルートやカメラアングルを緻密に設計することが不可欠であり、同時にパイロットとカメラオペレーターの高度な連携、GPSやジンバルによる安定化技術が前提となります。

ドローンは、監督やカメラマンの演出意図を映像として形にする重要な役割を担います。そのためには、オペレーターとの密な連携や意思疎通が欠かせません。意図を正確に理解し、空中でどう表現するかをリアルタイムで判断することで、映像に求められる表現が初めて実現されます。

さらに、ドローン撮影はクレーンやステディカムといった従来の映画撮影手法を拡張する存在でもあります。地上からの視点では不可能だった“滑らかに空間を横断する視線”を提供し、編集に頼らず一連の出来事をワンカットで描き出すことを可能にしました。そのため、高品質な映像を実現するには、脚本段階からドローン撮影を前提にプランニングを行い、シーンごとの演出意図を明確にすることが極めて重要です。ドローンは単なる技術ではなく、物語を語るための新しい言語として機能しているのです。

安全管理とリスクマネジメント体制の構築

映画の撮影現場では、多数のスタッフやキャストが限られた空間に集まるため、ドローンの運用には常に高度な安全管理が求められます。特にアクションシーンや群衆の上空を飛行する場合、わずかな操作ミスや機材トラブルが重大事故につながりかねません。

こうしたリスクを最小限に抑えるためには、専門のドローンオペレーターと安全管理担当者の配置が不可欠です。さらに、撮影場所の地形、風速、電波干渉などの環境要因を事前に徹底調査し、運用時のリスクを想定した安全運用ガイドラインを策定しておくことが重要です。

撮影前には、全スタッフにフライトプランを共有し、飛行ルート、立入禁止エリア、緊急時の対応フロー、安全確認の合図、注意点などを徹底的に確認する必要があります。ドローン撮影は、オペレーターの操縦技術だけで完結するものではありません。現場全体が一体となり安全意識を共有し、リスク管理を文化として根付かせること。これこそが、持続可能な撮影体制を築くための礎だと考えます。

チーム内の密な連携とワークフローの最適化

映画撮影においてドローンは、単なる「空飛ぶカメラ」ではなく、カメラマンの手足として、作品の意図を汲み取ったカットを精密に描き出す存在です。そのためには、ドローンオペレーターとカメラマンの密な連携が欠かせません。

特に、ドローンの操縦とカメラ操作を別々の担当者が受け持つ場合、この二人の呼吸が合っているかどうかが映像の完成度を大きく左右します。オペレーターは機体の動きを正確に制御し、カメラマンは構図や動きをリアルタイムで調整する。この役割分担が噛み合えば、よりダイナミックかつ繊細な映像表現が可能になるでしょう。

さらに、地上カメラとのカット割り、特機部とのタイミング調整、監督とのイメージ共有など、撮影全体の中でドローンがどのように機能するのか、チーム全員が把握しておくことが大切です。こうした準備と連携が整えば、ドローンは「現場の一部」として自然に溶け込み、より高精度で説得力のある映像を生み出せるはずです。

ドローン撮影は、映画の映像表現に革新をもたらした“新技術”の時代を経て、今では映画制作を支える基盤のひとつへと進化しました。自由自在なカメラワークや迫力ある空撮は、物語世界をより豊かにし、観客の没入感を高める重要な役割を果たしています。

技術の進歩とともに、ドローンはこれからも映画映像のクオリティと表現の幅を広げ、さらなる可能性を切り拓いていくでしょう。

※映画制作でドローンカメラマンをお探しでしたら、株式会社TRICO.へご相談ください。

著者:石山裕太 TRICO.代表取締役

ドローンカメラマンとして業界歴10年以上。CM、VR、イベント、産業系とオールジャンルの撮影に携わる。 マイクロドローンから超大型機まで、繊細な飛行技術を有する案件が得意。ドローンVR作品は日本各地で上映中。

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