トップ» コラム一覧» Zenmuse X9-8K Air徹底解説|CinemaDNG・ProRes RAW・EI・レンズの実務
Zenmuse X9-8K Airは、DJI Inspire 3専用のフルフレームジンバルカメラです。DJIのドローンで唯一CinemaDNGを内部収録でき、ProRes RAW、交換式レンズ、デュアルネイティブEIといった、地上のシネマカメラに近い収録の仕組みを空撮に持ち込めることが最大の特徴です。
CM・映画・ドラマの現場では、収録形式は撮影部・DITから指定されるのが基本です。空撮チームの役割は、その仕様どおりに確実に収録すること、そしてフレームレートによるベースEIの切り替えやデータ量、レンズごとの運用条件といったX9-8K Air固有の事情を事前に共有しておくことにあります。本記事では、スペックの紹介にとどめず、TRICO.が現場でどこに気を配っているかを含めて解説します。
機体としてのInspire 3を選ぶ理由や2オペレーションの考え方は、Inspire 3を映画・CM・ドラマ空撮で使う理由|シネマ撮影の実運用で詳しく扱っています。
Zenmuse X9-8K Airの基本仕様:現場で効いてくるポイント
まずは仕様のうち、撮影部・DITとの打ち合わせで実際に話題になる項目に絞って整理します。
| 項目 | 仕様 | 現場で意識すること |
|---|---|---|
| センサー | 35mmフルサイズCMOS | 焦点距離の感覚を地上カメラと共有できる |
| 最大動画解像度 | 8192×4320(8.1K DCI 17:9) | 4K仕上げなら構図の微調整やスタビライズの余白になる |
| 内部収録形式 | CinemaDNG/Apple ProRes RAW/ProRes 422 HQ/H.264 | CinemaDNG・ProRes RAWの収録には別途有償ライセンスが必要 |
| 最大フレームレート | CinemaDNG:8K/25fps ProRes RAW:8K/75fps(2.39:1・S&Qモード時)、S&Qで4K/120fps(フルフレーム・クロップなし) | 形式によって上限が大きく異なる |
| デュアルネイティブEI | 29.97fps以下:EI 800/4000 29.97fps超:EI 320/1600 | ハイスピード撮影ではベースEIが下がる |
| ダイナミックレンジ | 14+ストップ(DJI公表値) | EIによってハイライト側・シャドウ側の配分が変わる |
| カラー | D-Log/DJI Cinema Color System | RAW・Logで収録すればグレーディングの幅を残せる |
| レンズマウント | DLマウント(交換式) | サードパーティ製レンズの選択肢も広がっている |
| 記録メディア | PROSSD 1TB | 収録形式によって1本あたりの記録時間が大きく変わる |
CinemaDNG・ProRes RAW・ProRes 422 HQの使い分け
収録形式は撮影部・DITの指定で決まる
CM・映画の案件では、収録形式はカメラマン・撮影部・DITから指定されるのが通常の運用です。発注の段階でも、求められる収録形式から逆算して機体が決まります。CinemaDNGやProRes RAWが必要なカットであればInspire 3が指定され、予算の都合で収録形式を妥協できる場合には、Mavic 4 Proなどの機体にランクを下げる判断もあります。以下では、形式ごとに空撮側で変わる条件(記録時間やフレームレートの上限など)と、現場での扱いを整理します。
CinemaDNG:DJI機で唯一の選択肢、データ量は最大
CinemaDNGは連番の静止画ファイルとして記録されるRAW形式で、グレーディングの自由度を最も残せる形式です。X9-8K AirはDJIのドローンで唯一CinemaDNGを内部収録できるため、「ドローンでもDNGで」という撮影部の要望にそのまま応えられます。
一方でデータ量は最大になり、8K収録の上限は25fpsまでです。8.1K 17:9・24fpsで約810MB/sに達するため、PROSSD 1TBに収まるのは単純計算で20分前後。Inspire 3のフライト1回分と同程度の収録時間なので、回しっぱなしのカットが続く日は、フライトのたびにSSDを交換する前提で本数を組みます。
ProRes RAW:データ量と扱いやすさのバランス、ハイスピードにも対応
ProRes RAWはRAWの情報量を保ちながら、データ量をCinemaDNGのおよそ半分に抑えられる形式です。8.1K 17:9・24fpsで約405MB/s、PROSSD 1TBで40分前後が目安になります。8K/48〜60fps(17:9)や、S&Qモードでの4K/120fpsといったハイスピード収録に対応するのもProRes RAWです。
ProRes RAWは、ポスト側の編集・グレーディング環境が対応しているかどうかで後工程の扱いやすさが変わる形式でもあります。この形式が指定される背景には、撮影部・DITとポストの間で、こうした環境面の判断が済んでいることがほとんどです。
| 収録形式(8.1K 17:9/24fps) | データレート | PROSSD 1TBでの記録時間の目安 |
|---|---|---|
| CinemaDNG | 約810MB/s | 20分前後 |
| ProRes RAW | 約405MB/s | 40分前後 |
※公称データレートからの単純計算です。実際の記録可能時間はフォーマット後の容量等で前後します。
ProRes 422 HQ:RAWを使わない案件の現実的な選択
X9-8K Airが8K RAWに対応しているからといって、すべての案件でRAW収録をするわけではありません。企業VPのように編集・グレーディングに割ける予算がCM・映画ほど大きくない案件では、ProRes 422 HQで4K収録にとどめることも多くあります。「対応できる」ことと「その案件で使うべきか」は分けて考え、後工程のコストに見合った形式を選ぶのが実務上の判断です。
EI(露光指数)とデュアルネイティブISO
X9-8K Airのネイティブ感度は、フルフレーム・29.97fps以下でEI 800とEI 4000です。日中の屋外ではEI 800、夕景や夜景など照度の低い場面ではEI 4000を基準にすることで、明るい場面でも暗い場面でもノイズの少ない画が得られます。
| フレームレート(フルフレーム) | ネイティブ感度 |
|---|---|
| 29.97fps以下 | EI 800/EI 4000 |
| 29.97fps超 | EI 320/EI 1600 |
29.97fpsを超えるフレームレートでは、ネイティブ感度がEI 320とEI 1600に切り替わります。
EIごとのダイナミックレンジ配分
ダイナミックレンジの総量はEIによって大きくは変わりませんが、ハイライト側とシャドウ側の配分が変わります。以下はDJIが公表しているEIグレースケール(29.97fps以下)をもとにした目安です。
| EI | 合計DR | ハイライト | シャドウ | 読み方 |
|---|---|---|---|---|
| 200 | 14.1stops | 5.1 | 9.0 | ハイライト側の余裕が小さく、白飛びに注意 |
| 800(ネイティブ) | 14.7stops | 7.1 | 7.6 | 配分のバランスが最もよい |
| 4000(ネイティブ) | 14.5stops | 7.1 | 7.4 | 暗部に強く、夕景・夜景の基準になる |
| 6400 | 14.0stops | 7.1 | 6.9 | ハイライトは維持されるが、シャドウ側の余裕が減る |
| 12800 | 13.7stops | 6.3 | 7.4 | ハイライト側の余裕も小さくなる |
ただし、どこに露出を置くかはEIの基準だけで機械的には決めません。空、水面の反射、車体の塗装など、そのカットで守るべきハイライトがどこにあるかを撮影部と共有し、ポストでの扱いまで見据えて判断します。
レンズ:交換式レンズで「地上と同じ画角の言葉」で話せる
X9-8K Airの価値は、カメラ本体と同じくらい交換式レンズにあります。固定レンズのドローンでは「とりあえず広角で飛ばす」発想になりがちですが、X9-8K Airなら監督・撮影監督と「このカットは50mmで」と、地上と同じ言葉で画角の相談ができます。地上カメラとのカットのつながりも組み立てやすくなります。
2025年以降はサードパーティ製のDLマウント対応レンズも登場し、選択肢が広がりました。TRICO.では現在、以下のレンズを運用しています。

| レンズ | 特徴・運用上のポイント | 主な使いどころ |
|---|---|---|
| LAOWA 11mm | 超広角MF。ジンバルとの電子接点がないため、地上で絞りを合わせ、フォーカスは無限遠に固定して飛行 | 歪みを抑えた超広角のカット |
| LAOWA 14mm | 11mmと同様に電子接点なし。運用方法も同じ | 超広角の中で画角を少し締めたい場合 |
| DJI DL 18mm F2.8 | 超広角・歪みが少ない | 街や地形の全体を見せるカット、建築のスケール感 |
| DJI DL 24mm F2.8 | 広角・自然なパース | 車両追従、滑らかな追従ショット |
| DJI DL 35mm F2.8 | 標準・遠近感のバランス | 被写体中心の構図 |
| DJI DL 50mm F2.8 | 中望遠・圧縮効果 | 背景を引き寄せた迫力のある構図 |
| DJI DL 75mm F1.8 | 明るい望遠・浅い被写界深度 | 背景をぼかした被写体の切り出し |
| Viltrox 90mm | サードパーティ製の望遠 | 純正ラインナップより長い画角が必要な場合(運用条件を事前に共有) |
電子接点のあるDLレンズでは、DJI Three-Channel Follow Focusを使ってフォーカスとアイリスを無線で遠隔操作できます(Inspire 3ではズームの遠隔操作はできません)。75mm F1.8を開放付近で使うような、被写界深度の浅いカットでは、このフォーカス送りが画の成否を左右します。
フォーカス送りは撮影部の担当領域です。シビアなフォーカス送りが必要なカットがある場合、TRICO.は事前に撮影部と相談し、制作部を通じてそのカットに撮影部のフォーカスプラーをあててもらえるよう調整します。また、焦点距離が長くなるほど、わずかな機体の動きが画面上では大きなブレや構図のずれになります。望遠レンズでの空撮は、操縦の精度が露骨に画に出る領域でもあります。
撮影前に撮影部・DITとすり合わせること
X9-8K Airでの収録を確実にするために、TRICO.が撮影前に撮影部・DITと確認している項目を整理します。8K 16:9・CinemaDNG・23.98fps・D-Log・EI 800・WB 5600Kといった具体的な値まで、ここで言葉を揃えておきます。
| 確認項目 | 主な内容 | 確認しておく理由 |
|---|---|---|
| 収録形式・解像度・アスペクト比 | CinemaDNG/ProRes RAW/ProRes 422 HQ、8K or 4K、17:9/16:9/2.39:1 | 形式によってフレームレートの上限と記録時間が変わる |
| フレームレート | 通常カットとハイスピードカットの有無 | 地上のカメラと合わせる |
| メディアの本数 | 撮影量に対するPROSSDの必要本数 | 形式によって1本あたりの記録時間が倍以上変わる |
| レンズとフォーカス送り | 使用レンズ、フォーカスプラーが必要なカット | 撮影部のスケジュールを制作部経由で押さえる必要がある |
補足:Netflix認定カメラとしてのInspire 3
2025年4月、Zenmuse X9-8K Airを搭載したInspire 3が、Netflixの4Kオリジナル作品向け認定カメラリスト(Approved Camera List)に加わりました。ドローンとして初めての認定とされ、DJI製品としても初の掲載です。
Netflixは、作品の最終的な総尺の90%以上を認定カメラで撮影することを求めています。認定カメラはダイナミックレンジや色の正確さ、解像感、S/N比、ワークフロー要件などの評価を経て選ばれており、Inspire 3の空撮カットもこの「認定カメラで撮影された部分」に数えられるようになりました。あわせて、DJIからInspire 3向けのカメラプロダクションガイドも公開されています。
もっとも、国内のCM・映画・ドラマの現場で収録形式や機材を決めるのは、あくまで各作品の撮影部・DITの判断です。TRICO.では、Netflix認定をX9-8K Airの収録性能を示す客観的な指標の一つと捉えています。
TRICO.のZenmuse X9-8K Air運用体制
TRICO.はInspire 3とZenmuse X9-8K Airをそれぞれ2台保有しており、万が一のトラブル時にも同じカメラで撮影を続けられる体制を整えています。レンズは前述のLAOWA 11mm・14mmからDJI DL 18〜75mm、Viltrox 90mmまでを運用し、コンテやカットの内容に応じて選択します。
ジンバル操作には、プロポ、IGNITE DIGIのコントロールデッキ、DJI Force Proを、カットや作品に合わせて使い分けています。Force Proは普段の雲台に近い感覚で操作できるため、作品のカメラマンにジンバルを操作していただく形で組むこともあります。パイロットとカメラオペレーターを分ける2オペレーションも、撮影条件に応じて選ぶ体制の一つです。
収録形式の相談から、機材の構成、撮影部・DITとのすり合わせまで、Inspire 3での空撮が必要な案件はお気軽にご相談ください。
よくある質問
Q. CinemaDNGとProRes RAW、どちらで撮るべきですか?
A. 撮影部・DITの指定と、ポスト側の編集・グレーディング環境で決まります。CinemaDNGはグレーディングの自由度を最も残せる一方、データ量が大きく8K収録は25fpsまでです。ProRes RAWはデータ量をおよそ半分に抑えられ、ハイスピード収録にも対応します。TRICO.は指定された形式で収録し、それぞれの記録時間やフレームレートの制約を事前にお伝えします。
Q. Inspire 3で撮るなら、必ずRAW収録になりますか?
A. いいえ。企業VPなど、編集・グレーディングに割ける予算が限られる案件では、ProRes 422 HQで4K収録にとどめることも多くあります。後工程のコストに見合った形式を選ぶのが実務上の判断です。
Q. スローモーション用のハイスピード撮影はできますか?
A. ProRes RAWで8K/60fps(17:9)、S&Qモードでフルフレーム4K/120fpsまで内部収録できます。29.97fpsを超えるフレームレートでは、ネイティブ感度がEI 320/1600に切り替わります。
Q. 空撮でもフォーカス送りはできますか?
A. 電子接点のあるDJI DLレンズであれば、DJI Three-Channel Follow Focusでフォーカス・アイリスを遠隔操作できます。フォーカス送りは撮影部の担当のため、必要なカットは事前に相談し、制作部を通じて撮影部のスケジュールを調整します。電子接点のないLAOWA 11mm・14mmはフォーカス無限遠固定での運用になります。
Q. PROSSD 1TBで何分くらい撮れますか?
A. 8.1K 17:9・24fpsの場合、単純計算でCinemaDNGは20分前後、ProRes RAWは40分前後が目安です。撮影量と収録形式からSSDの本数を組み、撮影日数が複数日にわたる案件にも対応しています。
Q. Netflix作品の撮影にも使えますか?
A. Inspire 3はZenmuse X9-8K Air搭載の構成でNetflixの4Kオリジナル作品向け認定カメラリストに掲載されています。具体的な収録設定は、作品ごとの撮影部・DITの指定とDJIのカメラプロダクションガイドに沿って進めます。
まとめ
Zenmuse X9-8K Airは、CinemaDNG・ProRes RAWの内部収録、交換式レンズ、デュアルネイティブISOによって、空撮を地上カメラと同じ言葉で語れる存在にしたカメラです。一方で、形式によって倍以上変わる記録時間や、レンズごとの運用条件など、ドローン特有の事情も抱えています。
撮影部・DITが指定する仕様どおりに確実に収録し、その前提となる制約を先回りして共有する。TRICO.はそのことを、空撮チームとして最も大切にしています。Inspire 3での撮影や収録形式のご相談は、お気軽にお問い合わせください。

COMPANY
| 会社名 | 株式会社TRICO. |
|---|---|
| 住所 | 〒104-0061 東京都中央区銀座1-12-4 N&E BLD. 7階 |
| 電話 | 090-3355-1480 |
| メール | info@team-trico.com |
| 代表者 | 石山 裕太 |
| 適格請求書発行事業者登録番号 | T1010001241161 |
| URL | https://team-trico.com/ |